令和4年3月12日に上梓されたばかりの、福島県歌人、佐藤祐禎歌集をご紹介します。『再び還らず』は祐禎氏の第二歌集で、第一歌集は正に原発事故の予言の書とも言われた『青白き光』です。作者は平成25年に84歳で逝去されましたが、あとに残された多くの作品を、親しかった友人たちが本書に纏められました。この世に原発という危険物がある限り、読み続けたい歌集だと思います。
佐藤祐禎 『青白き光』より
いつ爆ぜむ青白き光を深く秘め原子炉六基の白亜連なる
小火災など告げられず原発の事故にも怠惰になりゆく町か
原発に勤むる一人また逝きぬ病名こんども不明なるまま
佐藤祐禎 『再び還らず』より
突然の揺れに思はず地に伏せば目前の舗装たちまちに裂く
わが門の路面突然の液状化辛うじて車の幅のみ残る
目の前に家屋押し合ひ流さるる様見るのみに立ちつくしたり
砂利満載のトラック見るみる傾くを早く降りろと運転手にさけぶ
たちまちに海が膨れて砂丘超えなだれ来るさま見てすぐに逃ぐ
流されて家なき地区の知りびとにかける言葉なし涕ぐむのみ
憤りも笑ひも忘れひっそりと蟄居してをり避難者われは
大震災のあとの余震の絶え間なしこの世の終はりかと思ふときあり
街路樹の銀杏は若き枝のべてしばしの涼を人にとらしむ
子規の書は文語なれども苦にならず昭和一桁生まれの身には
夜の床に浮かびし歌をおこたりて明けくれば一切空となりゐつ |