作品紹介

選者の歌
(令和4年6月号) 


  東 京 雁部 貞夫

幾十度いくそたびくぐりし門か入りがたし枯れしかづらの覆へる中は
明窓浄机文明自筆の軸のまへ添削受けしわれ十五歳


  東 京 實藤 恒子

下がり花は一夜の命合歓に似て長き穂花の数十糎
茎短く雪の小鈴がほころびて小寒に入り寒さの続く


  四日市 大井 力

軍事力剥き出しの世が目の前に現れぬ平和馴れせし吾等の前に
戦車駆る動きを止めて舞ふ雪を見たまへ有限の命思ひて


  小 山 星野 清

ああここがジュリアード音楽院しばらくをゲート出入りする学生見てゐき
学院のゲートの前に楽器負ふ姿まばゆし眺めゐたりき


  柏 今野 英山

ワイダ撮りし「カティンの森」のポーランドまたもやロシアと向きあふうつつ
生きてなほ深い悲しみ「ひまわり」の舞台はまさにウクライナの地


  横 浜 大窪 和子

戦を仕掛けし祖国を悲しむと己がロシアを嘆く人々
己が末期をいかに思ふやウラル山脈の隠れ家にプーチン潜むと伝ふ


  札 幌 阿知良 光治

絵画にも小説にも見ゆる反権威世代アプレゲール加清純子の作品展巡る
謎残し死にたる彼女の作品展変遷の果ての白き自画像


運営委員の歌


  能 美 小田 利文

送迎の車窓より日々仰ぎ見しF15戦闘機小松沖に墜つ
基地勤務の家族持つ同僚の幾人か思ひて祈る無事の帰還を


  小 山 金野 久子

ウクライナの幼呟きし「死にたくない」わが四歳の空襲に重なる
君の庭にミモザ咲くころか爽やかな笑みを残して先立ちましぬ


  生 駒 小松 昶

国連にカザルス唸りつつ弾きし「鳥の歌」今こそしかとプーチンは聴け
侵略を正当化する子供向けの番組流す国営放送


  東 京 清野 八枝

理不尽な己が野望にウクライナを破壊し尽くすかプーチンの狂気は
「こどもたち」と敷地に記ししロシア語をあざ笑ふごと劇場空爆す


  島 田 八木 康子

隣り家の雨戸繰る音午前五時会ふも稀なり教師の夫妻
耳たぶのしんしん冷ゆる感覚も久しぶりなり今年の冬は



先人の歌

 ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、さまざまな紛争や事件が続いて、私達の心も暗く沈みがちなこの頃ですが、今月は、2月号で金野久子さんが紹介された「春の雪」に続く三宅奈緒子先生の清新な初夏の歌「五月の渚」をお届けします。
 遠足や修養会など、翌春には退職を迎える先生の心に残る少女達との風景が、みずみずしく詩情豊かに描かれて、清らかな世界がひろがります。
                    ( 清野八枝 )

      「五月の渚」
               (「風知草」より)

えごの花咲く林みちひえびえと暗きに海の潮が匂ふ
岩の間に浮ける水母くらげをかこむなど少女らとゐて五月の渚
渚にあそぶ少女らのなか岩陰に一人すばやくビキニとなりつ
彩色せる大きコンテナ船沖を過ぐながく砂にゐて砂あたたかし
身を軽く揺りつつ唱ふ少女たちCome sail away と一つリズムに
コーラスの終りたるとき指揮の少女白き帽子を聴衆に投ぐ
テーマ分かちグループ討議する若きらよ寮の森には小綬鶏鳴きて
炎かこむ少女らの輪に月照りて影はしづけし芝草のうへ


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