佐藤 嘉一
第九条守りつつミサイルを防ぐこと吾は吾なりに考へてみる
平21.10
第九条今年も誤たず暗誦しぬ憲法記念日のけふ朝の日に向きて
平25.8
声高く暗誦をして第九条守りたき意思の表明とする
平26.8
焼夷弾に一瞬に燃えしか理科室にあまた並べゐし蝶の標本も
平26.10
抱かれし子も母と共に黒こげになりて路上にころがる写真
平27.6
十万人の都民を一夜に焼き殺ししアメリカの戦略に今も怒り湧く
同
グラマンの機銃掃射に焼けしトタンかむりて耐へき先生と共に
平27.11
戦死せし叔父あり爆死せし友あれば憲法の改正させてはならぬ
平28.9
校庭に居りし子供が米軍機に撃たれて死にしを伝へ聞きたりき
平29.10
空襲に焼けし校舎の跡に播きしそばの生ひしを友と喜びき
同
藷を蒸せば近所に配りゐし交はりも戦争により絶えてしまひぬ
平30.4
サイパン島陥りし頃に『君たちはどう生きるか』を吾読みたりき
同
学級写真に写れるなかの三人は学徒動員にて爆死したりき
平30.8
爆死せし友の母親は気の狂れて戦後の街をさ迷ひゐしとぞ
同
甲高きはロッキード濁りし爆音はグラマンと聞き分くるまで襲撃ありき
令3.10
「新アララギ」選者、「土屋文明全歌集各句索引」等の著者として貢献され、今年1月91歳で逝去された佐藤嘉一先生のこの十年間の「新アララギ」掲載歌から、先生が一貫して詠み続けてこられた憲法第九条と、戦争体験の歌をここに挙げた。ロシアによるウクライナ侵攻の状況が日々伝えられ、軍事費増強やむなしの声が強まる今こそ、心静かに読みたい歌の数々である。 |