新アララギの選者であった三宅奈緒子氏に『アララギ女性歌人十人』(平成二十三年刊)という著書がある。その中から順を追って十人の歌人を担当月に紹介して行きたいと思う。
中原しづ子(明治の終りから大正にかけてアララギに出詠)
中原しづ子は、島木赤彦が広丘村小学校の校長時代、新卒で赴任し、同じ下宿に寄寓し親しく指導を受けた。『馬鈴薯の花』から『切火』にかけての赤彦の秘めた恋愛感情の対象といわれ、後年、川井静子の名で『桔梗が原の赤彦』(昭和三十二年刊)を出し、当時の赤彦の姿を浮き彫りにした。
・故郷の秋はあまりに淋しけれ山のみどりのああ褪せてゆく
・女なればかまどの前につつましく涙拭ひて座り居にけり
・久々に母とゑめるよ長かりし流離の心ただ泣かまほし
・己がする息の音かも更けてゆく夜の音かもいよよ寂しき
・このごろのわが神経の鋭さよ嵐のそこにうづくまりゐる
・幾たびか思ひなほせど失せしものそつとわきつつ星流れたり
・とこしへに失せしものかも流れ星あはれ再び生れ見えぬかや
後の同人歌集『丹の花』より
・相向ふ火鉢の灰をかきならし別れ惜しみし二人なりけり
・あはれこのをののく胸に秘めて恋ふ誰に語らむわれならなくに
・君がのたまふ一言一言にうなだれて何を嘆かふはるかなる道
・あざやかに思ひ迷ふよ二筋のいづれの道に捨つる命ぞ
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