今月は私が短歌のご指導を受けた三宅奈緒子先生の作品をご紹介いたします。先生の作品はこれまでも幾度かご紹介して来ましたが、アララギで初めて女性の選者となった優れた歌人です。
私の高校の担任で国語の教師でした。魅力的な楽しい授業で先生が大好きでした。短歌のご指導をお願いしたのは、思えば、その数十年も後のことになります。
この「有明山麓」は先生が長野県安曇野市穂高に小さな山荘を建てて、東京の学校の夏休み中に滞在していた折々の歌です。赤松林の自然豊かな山荘の日々を詠んだ歌に、昨今の苦渋にみちた世界を一時離れて、すがすがしい気持ちになって頂けたら、と思います。
「有明山麓」 三宅奈緒子 (「四季のうた」より)
この山荘に宿りし父も夫も亡く目に泌みて今年の櫟の若葉
恋ひて待つヨタカのこゑは松林暮れしづむとき低くみじかく
セキレイは沢のしげみを飛びたちぬ水に山吹の花を散らして
書きなづみわがゐるときに目の前の赤松暗み轟きて降る
沢の向うの赤松林夕光に照りて我がゐる林は暮れつ
林のなかの白き山荘その二階の窓ひらく見ゆ今朝木々の間に
有明山に煙のごとき夕べの雲仰ぎ来てここの暗き萱むら
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