高松 岡崎 資源
本年1月に亡くなった岡崎資源氏の短歌を紹介したい。生年は昭和17年。故小谷稔先生に師事された高松在住の医師であった。歌集を三冊残されているが、今ここではなくなる直前から亡くなった直後「新アララギ」に掲載された通常の投稿歌を挙げたいと思う。町の人々に寄り沿い続けた医師としての晩年が凝縮されたような作品である。
2023年 十二月号より
町医者を置きて医学は進みゆく未病なる潜在癌さへ
PETは見つくる
癌検診を受けしグループも受けざりしも死亡率には差なしといふ事実
晩年の父を思ひて診てゐたりズボンの前のいたく濡れゐつ
いつのときも父は「お父さん」でありし「
親父」などとは決して呼べず
「
竹虎」か「資源」かに迷ひしといふ父よユニークに吾は生きてゐる
奇を衒ふときに大胆「資源」と名付けし父の心は吾にも
2024年 一月号
按摩膏薬エキホスなどを言ふもなし大正昭和も遠くなりゐつ
若いときに無理をしたねと声をかけ腫れて曲れる膝に手を当つ
冠動脈の拡がりゆくをイメージせりニトロは舌下に苦く溶けつつ
診る老いに「義理は欠けよ」と言ひ来しがいつか己のことになりゐつ
十五年診つつ来りて今日知りぬ南の島に戦ひし九十歳を
診断書を手渡しながら声低く告別式の日取りを聞きぬ |