四十台の仕事ぢやありませんねと労られ蔑まれつつ半年過ぎぬ
五月雨に色深みたる大谷石わが家の塀は仕上がりてゆく
英国の子等が描きし図書室の壁の世界地図に日本はなし
初めての日本人として入る村に挙手の敬礼する老がゐる
ロープ引きて行き戻りしつつ牛の汲む皮袋の水は田に流れゆく
雲はれて月の光の照るところガネシュヒマールの白き嶺見ゆ
木々の間に遠く紅旗のはためきて遙か山腹にチベットカサの村
戒厳令下の暗き街路をゆるがせて戦車はゆけりわが窓の下
稔る穂のかげに錆びたる鉄条網連なりて南北に稲田を分つ
日本一の胴掘り尽して資本去りタクシー四台置く町となる
砂糖水にうまいと応へし一言が八十七歳の最期なりけり
月下美人開き初むるとわれを招く今年の母の声聞き得たり
君の個展に幾度も来てわれは対ふ共に歩みし雪のヒマラヤ
翁草の押し花を求め給ひしより四十余年のえにしなりけり
夜更けて机に積める封切れば煙草のにほふ原稿の出づ
在りし日のままに先生の題字掲ぐ先生はしばみは五百号です
昼も夜も心に染まぬことに過ぎ午後十一時わが時となる
われの他に食らふなかりし干納豆今宵わが膝に幼子が食ふ
迷ひなく捨つる己に驚きつつ校長六箇年の資料火に捨つ
管理職として勤めたる十二年なかばはニトロ携へたりき
昨年12月21日に91歳で逝去された星野清先生の第一歌集『白嶺』より。
星野先生は新アララギ選者、はしばみ代表として長く尽くされるとともに、
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