秀作 |
|
|
○ |
|
森 良子 ★ |
|
スーパーの卵ひとつを手に取りて生命のことを考えており |
|
卵一つを手にとりて思う月足らず生まれきて死にしわが子を |
|
|
○ |
|
藤丸 すがた ★ |
|
朝焼けの線路の上の眩しさを遮るコートの群れ散り散りに |
|
愚痴を言う友をうしろに乗せていて馴れぬペダルを思いきり踏む |
|
|
○ |
|
長澤 英治 ★ |
|
雪嶺のひだつたい来し谷水の木橋の下に放つかがやき |
|
ワンブロック向うのバスのナンバーを読める目を持つ君うとましき |
|
渋谷にてまた乗り合わすささやかなそんな幸せ噛みしめており |
|
斜め前の席につつましくノート取る白きその指細きその腕 |
|
|
○ |
|
え め ★ |
|
「兵役に行ってきます」と打ち残し韓国の友はログアウトした |
|
長椅子の真中に一人坐りいる黒人の目はぎらぎらとして |
|
就職が決まり辞めゆく同僚が襟正し別れの言葉を述べぬ |
|
同僚がやめゆきて吾ひとり食う昼飯は早くすみ時間が長し |
|
|
佳作 |
|
|
○ |
|
半澤 宗一 ★ |
|
寺の奥の雑木混み合う斜面には稲荷の祠がしずもりてあり |
|
冬の日に後押しされるごとくにて光の中をバス走りゆく |
|
|
○ |
|
深 山 |
|
夜更けより雪に変りて人居らぬ芝生は白く街灯映す |
|
足音かと思ひて見れば梢より雪しづくしてめかるみを打つ |
|
|
|
○ |
|
優 ★ |
|
たちまちに歩道は真白になりゆきて見よう見真似に雪掻きをする |
|
買物に出ようと思いつつ時すごす雪はいまだにやむ気配なく |
|
|
|
○ |
|
田中 直美 ★ |
|
本当は次の契約のないことを言いそうになり歯を食いしばる |
|
言えぬこと日ごとに多くなるばかり食いしばる歯が痛くなりたり |
|
|
|
○ |
|
西沢 佐紀子 ★ |
|
街中に夜のとばりが落ちる頃ギターつまびく少年の指 |
|
大根を買物篭からはみ出させよろめきながら自転車が行く |
|
|
|
○ |
|
菜 野 呂 ★ |
|
光さす向きに従う葉のごとく今我もまた君に寄り添う |
|
モニターに点滅するカーソルを見守りて次に送らん言葉を探す |
|
|
|
○ |
|
彩 霞 ★ |
|
友達につれられて入る喫茶店わざと大人のふりをしなから |
|
気がつけば今日はいつもと逆になり私のヴィオラを追う君のチェロ |
|
|
|
○ |
|
澤 智雄 ★ |
|
この国のあり方を問いしかわが街の成人式の爆竹さわぎ |
|
年明けて友からの声がなくさびし不景気の故ばかりとは思えず |
|
|
|
○ |
|
下野 雅史 ★ |
|
すぐ消える蜃気楼のようになりゆかん消費社会に温かみなく |
|
二階から豪雨のはげしき様見つつ天気予報に疑いを持つ |
|
|
|
○ |
|
相沢 裕香子 ★ |
|
黄梅を散らす目白に目をとめて息つむる間に飛びたちにけり |
|
|
|
○ |
|
西村 文香 ★ |
|
何度でもキスしてほしい君の心と私の心を合わせるために |
|
|
|
○ |
|
長谷川 恵子 ★ |
|
はみだしっこを笑って見守る母われも人並みにと願う授業参観 |
|
|
|
番外 |
|
|
○ |
|
尾部 論 ★ |
|
予見したる暴落に予防の策もなく吾が職能を今し疑う |
|
継続は力なりと吾が意固めたり悩みしのちに至りし平凡 |
|
|
|
「短評」 |
選んでみると中々しっかりした歌が多くてうれしかった。 ほとんどの人がずぶの素人の境地からスタートしたと思うが、わずか五か月でここまで来たということは、長足の進歩であって感心するほかない。 ここに選ばれた歌は、作者のとりあげた素材が具体的でよいもの、ものを見つめる目がしっかりしているもの、心象の表白が率直であるものなど、内容に実体のあるものが感動を与えることを示唆している。 また、選ばれなかった歌についても作者として「なぜ選ばれなかったか」をよく検討してほしい。 私としては一つの「案」を示しているに過ぎないので、選ばれなかったものについては、すぐに捨ててしまうか、保存するかは、作者自身が決定していただきたい。森、藤丸、長澤、えめの四氏作はどこに出しても恥ずかしくないものと信ずる。
澤、下野の両君は大奮発しないと駄目だ。 来月もう一回私が担当するのでよろしく。 |
|
|