短歌作品投稿


今月の秀作と選評



石井 登喜夫(新アララギ編集委員・選者)


秀作



森 良子

ひとしきり風に飛び散る赤き花ブーゲンビリア冬枯れの庭に

仮装してはしゃぐ幼等に見惚れいて青信号をもう一度待つ

幾つかの薬並べて呑みている吾が知らざりし父の姿よ

思うようにならぬパソコンを見続けて瞬きすればコンタクト落つ


佳作



えめ

捨てられし馬券の山を踏みながら川崎競馬場を後にす

福祉士が弁当を並べ箸を置く桜の枝を箸置きにして



長澤 英治

残雪の深きに闇の迫り来てビバークせんと穴掘り始む

雪洞に車座のわれらラジウスに粥たぎらせて倫理を語る




深山 猪手

街灯の黄なる光に照らされて季節はずれの雪風に乗る




佐藤 元気

他人の子は不死身と信じているらしきこの男のビンタで性根が腐る




下野 雅史

後ろから鳩を追いかけ触ろうとなぜか平和な心地しており




田中 直美

息一つ深くすいたり由布岳の山ふところの御湯につかりて




明石 まき子

駅前の高層ビルの風の谷そこまで行かねばバス停がなく




渡邊 美沙

志望校何度も変える女子生徒ジプシーみたいと皆でささやく




澤 智雄

高松での暮らしに少しは馴れたかと案じてくれる人に感謝す





「短評」
 まず「何を」(素材)、次に「如何に」(技法)の順になるものだが、皆さんの作品の素材の選び方に「粗らさ」が目立ちます。 今月は「秀作」が少なかったのを残念に思います。 森さんの歌とその他の人々の歌の間には相当な格差があることを皆さんの目で確かめて下さい。
 初心者と思うのにすでに奇妙な癖を身につけている人がありますが、「癖」が力となるのはその人の究極の到達点に至りついた後のことです。 中にはかなり添削を加えてある歌がありますが、あくまで「一案」と理解して下さい。

バックナンバー