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今月の秀作と選評



石井 登喜夫 (新アララギ編集委員・選者)


秀作



ヒロミヤ

同じ空を見上げていながらアフガンの難民の子等の虚ろなる目よ

佳作



森 良子

病室の母を見るなり走り去る知的障害を持つ弟よ



ゆうすけ

明日のためテレビを消して床に入れば夢に再び崩れゆくビル




倉田 アンソニー 未歩

爆弾や炭疽菌を恐れ過ごす日々この悪夢からいつ覚めるのか




長澤 英治

形よき君の横顔を盗み見てティカップに我はまた手を伸ばす




澤 智雄

何処からか金木犀がかおりくる朝風になごむ季節となりて




下野 雅史

飽きもせず物質以外を求めゐる不幸な人種西に東に




尾部 論

この人と分り合うことはないだろう通話後吾は息吐き捨てた




田中 教子

くちばしに封筒くわえし鳩を見つ大学祭の準備のさなか





「短評」
ヒロミヤさんの作はテロ事件を素材にしながら、「事件性」を乗り越えた着眼点が優れている。 また、表現のごく自然によどみのないところが良いと言える。

森さんの歌は推敲を重ねた上のもので、二句三句はいろいろ苦心されているが、その辺りは余りいじくり回さなくてもよかった。 ひとつ言えることは、弟さんのことでもその肉体的な欠陥を歌にするには余程注意が必要ということで、今後留意してもらいたい。 表現の限界を心得ておくこと。

長澤さんの作中に見た「小鼻」というのは「歌言葉」としてはいかがなものかと思う。
「小鼻」を英語にしてみようかと思ったが、どうも落ちつかなかったし、鼻の横のふくらみを言う場合もあるし、鼻の穴を言う場合もあるので、「横顔」に置き換えた。

下野君の「物質以外」というのは、人々が「神」を求めていることを言っていると見たが、回りくどい言い方で、もっと直接に表せる筈だ。 下句を添削した。

尾部君の歌は口語なら口語で通すべきだ。 文語脈で新仮名遣いにするには破綻を生じるから注意のこと。

田中さんの場合は、ここに採った歌がおとなしくまとまったが、原作を生かせなかったのを惜しいと思った。

ゆうすけさん、倉田さん、澤君の作は一通りまとまっているが、幾らか力足らずと思われる。 その他、皆さんの作品で採りあげなかったものについては、よく検討をして頂きたい。
幾ら検討しても歌にはなり得ないものも多かったと言える。




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