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○
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千里 |
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その傷は夏の記憶かうつ伏せのシーカヤックに雨が降り継ぐ |
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評) 「シーカヤック」という素材を取り込んだ所にこの一首の存在感が生まれた。単に映像や、歌の材料ということに止まらずに作者はこの物体を人間的なものとして感情移入したのである。カヤックの方々についた傷が夏の記憶そのものを思わせるという所に、素材を自分(作者)に引き寄せる把握の強さを思った。 |
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○ |
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かすみ |
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古渡りと呼ばれし蒼き泪壷ペルシャより来てわれの掌のなか |
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評) 作品のテーマとして「泪壷」をすえた点にこの作者の感性が光る。そして「古渡り」「ペルシャ」とくれば数千年の時空を越えて古代と現代の女性が対峙しているかの如き感覚にとらわれたりもするのである。 |
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佳作 |
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○ |
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大窪 和子 |
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湿りもつ草枯れのみち踏みゆけば靴にやさしき弾み伝はる |
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評) 冬枯れの道を歩いた時の実感がやさしく伝わる作。 |
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○ |
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長沢 英治 |
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失職の身に妻子らのまなざしのやさしさ痛し十月に入る |
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評) この作者は社会詠的傾向が強い作品が多い。 下の句のまとめぶりは俳句的と言ってもよいかも知れない。
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○ |
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けい |
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寂しさに負けるものかと日の終わり力任せにシャツ脱ぎすてる
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評) 若い人の持つメランコリックな気持ちや勢いがよく出た作。「街角の…」の歌もそうした作である。 |
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○ |
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ヒロミヤ |
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山車(だんじり)の太鼓の音の木霊して橋梁の空を鳥渡り行く |
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評) 「だんじり」の現場から空に眼をやり渡り鳥の姿をとらえた、大きな空間が印象的。「橋梁」の一語がよく利いている。絵画的とも言える一首。
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○ |
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つね姫 |
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曇天の今日一日を悔やむよう空の全てを夕陽が染める |
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評) 好感の持てる歌である。「悔やむ」と「詫びる」の言葉による決定的な大差はなかった。
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○ |
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石田 聖実 |
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グレコ描くスペイン顔のマドンナに土に根ざせる信仰を見る |
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評) 「土に根ざせる」信仰の表われと感じた点が大切なところである。 |
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○ |
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としえ |
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肥後訛り飛び交う駅に降り立てばわすれいしものこころに満ちる |
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評) 他の作も良いが、この作品は一番実感がこもっている。とくに「肥後訛り」と具体的に詠んだところが良い。寺山修司、さかのぼって啄木にも「訛り」を詠んだ有名な作があるが、この作もそれらに負けはいない。 |
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