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○
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け い |
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普段なら声にも出せぬ優しさもすんなり言える父の病室 |
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評) 素直な気持がそのまま出ているのがよい。「目前で逃がした電車を見送って長きプラットホームに一人」の歌も、今月は一人一首にしぼったが、佳作にすることができる。 |
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○ |
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としえ |
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木犀の匂える下に足をとめ帰らむ家と子供思えり |
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評) 心の中の屈折がよく表わされている。もう一首の「木犀の小さき花の敷き詰まる道を子等より放たれ歩む」も関連する歌として佳作だろう。ただ「敷き詰まる」は「敷き詰めし」がよい。 |
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○ |
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大窪 和子 |
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石蕗の黄の花咲けば黄なる蝶今年も遊ぶ木かげひそかに |
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評)
推敲がよくなされている。 |
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○ |
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長沢 英治 |
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遠ざかる園児らのバスを見やりつつデーサービスの車むかへる |
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評)
次の「独り居の老人の屋敷に常ならぬ明り点りて人の出入りす」の歌とともに、現在の社会的背景も感じ取らせる歌。「屋敷」は「家」でよいと思う。「この年も友のひとりの訃報ありてパソコンの名簿が一行繰り上がる」にも、現在のパソコンの歌として注目した。 |
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佳作 |
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○ |
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かすみ |
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移りゆく季節は遥かな山なみをキャンバスとして色を変えゆく |
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評)
一連のもみじの歌の中では、大づかみのようだがずばりと言った独自さのあるこの歌を採ります。「美しく散るためにいま樹々の葉は色を変えゆく焔のように」も佳作でしょう。 |
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○ |
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つね姫 |
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陽だまりに花びら揺らす紫のパンセは私の何を見つめる |
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評)
「パンセ」は「パンジー」だそうですね。私も幼いころ、あの花を怖がって両親によくからかわれた。この歌はそんな幼いのでなくて、自己の何を見つめられているのかと内省的である。 |
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○ |
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ヒロミヤ |
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晩秋の古都の黄葉を偲びつつ膝重き脚にて今宵歩める |
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評)
古都に今は行けない思いを歌っている。 |
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○ |
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下野 雅史 |
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七色に染む霊山を近く見て三軒茶屋にて母と語らふ |
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評)
単に景色を見つつ母と語らうのでなく、「七色に染む」「霊山」「三軒茶屋」がそれぞれ母との話の内容を暗示している。
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○ |
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尾部 論 |
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ゴルフ焼けの横顔ばかり並びいる議員行員諮問委映像 |
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評)
現代為政者たちに対する諷刺。拡大されていくものを多く含んでいる。もう一首の「事務的なメールの遣り取りの二度ありて連絡途絶える声聞くことなく」も佳作。
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