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今月の秀作と選評




星野 清 (新アララギ編集委員)


秀作



としえ

日の暮れていよいよ青く澄む空に月は輝きを持ちはじめたり
受話器より肥後の訛りの友の声五年ぶりなり会たしという


評)
地味ではあるが、感性が働いている味わいのある歌だ。先例はなしとしないが、次も完成度は高い。ただし、「会いたし」。なお、「へップバーン」の歌ほか、今月は力作が並んだ。



佳作




桑原真美子

あなたから風邪をひくよと言われたい粉雪の舞うこんな夜には


評)
なかなかにうまくまとめ得た。かつて話題となったライトヴァースの流れを感ずるが、若い世代にはこんな歌があってもよかろう。



八木康子

芭蕉の句碑見ゆる電話ボックスより嫁がむと君に告げし日ありき


評)
まさに作者ならではの歌として出色。上句、字足らず字余りの難あり。「芭蕉の句碑見ゆる電話のボックス…」や「芭蕉の句碑眺めつつ電話ボックス…」など、まだまだ工夫の余地がある。「ダイダイ」の歌も面白い。「キャッシュカード」の歌にも心引かれたが、2句が充分に言い得ていないのではないか。



高橋美千代

見上ぐれば実験棟の窓の闇おのが虚ろに向かふここちす


評)
「実験棟」が利いて、ある感じを捉えている。「向かふ」は「対ふ」であろう。



大窪 和子

帰りきて鏡のまえに着替えするひととき吾と向き合いながら


評)
「ひととき」は安易だろう。これを工夫することにより、はるかによい歌となろう。なお、他の2首もよいが、1首目の4句「文字かえる」の「る」は省きたい。



かすみ

レース編みの母の遺しし手ぶくろを包めばわれの掌温し


評)
「石がわたしの靴の中にある」を挙げようかと思ったが、執念を称えてこの歌をとる。下句、大変よくなった。上句は先の掲示板の話を汲んで、たとえば「亡き母のレースの小さき手ぶくろを」など、まだまだ動く。



長沢 英治

温みゆく水割りを手に持ちしまま若きらの歌に笑み送るわれは


評)
これが一番すっきりと言えている。5首目の「改札」の歌の4句、「肩をゆらして」としてよくなったとは思えない。もっとこだわって、よい歌にしてほしい。



かすみ

レース編みの母の遺しし手ぶくろを包めばわれの掌温し


評)
「石がわたしの靴の中にある」を挙げようかと思ったが、執念を称えてこの歌をとる。下句、大変よくなった。上句は先の掲示板の話を汲んで、たとえば「亡き母のレースの小さき手ぶくろを」など、まだまだ動く。


つね姫

父親を亡くした友の赤き目に私の知らぬ悲しみを見る


評)
これも、こだわった甲斐があり完成したと言えよう。文語の短歌を見慣れた目には、口語の短歌はやわく感ずる。たとえば、「見ぬ」とはっきり終止形にしたい。 が、そうすると2句は「亡くしし」とでもすることになり、作者の語感とは違ったものになってしまうから、今は好みのままにということか。


石田聖実

撮り直しまた撮り直しした末のGood!(グー)出す手見て疲れ吹っ飛ぶ


評)
状況がずっとよく伝わるようになった。上句、特に3句「した末の」など、まだ工夫の余地あり。例えば、その場の雰囲気や時間の経過など、何か匂わせることもできよう。
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