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今月の秀作と選評




倉林美千子 (新アララギ選者・編集委員)


秀作



けい

コンビニで一人おでんを買う聖夜ぶっきらぼうにサンタがレジ打つ


評)
コンビニのサンタと作者の在り様が、巧まずして表現されています。聖夜であることで、現代の若者である作者の、憮然とした寂寥が強調されたのでしょう。他の二首も良い作でした。



桑原 真美子

遠ざかる黒のコートが翻り書店の前には輝きがある


評)
個性ある感覚的な相聞歌で注目しました。「書店の前に残る輝き」とすると初句がもっと強調されるかもしれません。


佳作




としえ

店先の鉢のシクラメンに冬越すか天道虫ひとつ小さく飛びぬ
もう起てぬ父を見舞える人らよりわがしらぬ優しき父を知りたり


評)
一首目、苦労をして下の句が良くなり完成しました。
二首目はこれは初見ですが、「息あえぎ」の歌とともに、自然な心の流露がみえて良い作です。



高橋 美千代

避雷針の上空をゆく雲はやし心かよはぬ会話継ぐとき


評)
ついに自身でかちとった下の句。主張のはっきりした一首となりました。他の三首も大変良いと思います。



かすみ

新しい歌集ひらけばひとすじの栞はひかるみづ浅葱色


評)
他の四首もほのぼのとして人柄の見える作品。どれも良いが、苦心して自力でしあげた一首を選びました。



長沢 英治

成人式終へし若きらいっときの賑はひのこし町を去りゆく
あでやかに着飾りし娘ら三人を追ひ越しがたし錦小路に


評)
暗喩の鯉がいなくなってほっとしました。いっときの賑わいの過ぎた普段の町の、さびしさがよくでています。二首目は着飾った娘達に圧倒された感じが面白い。五首目はもう一度。



つね姫

この両手で育ておる息子は大阪に旅立つという12歳春


評)
心あまってなお未完成。「この手にて育てこし子は大阪の寮に入るという十二歳春」原作通りで言葉を整えただけ。一例。 重要な素材(あなたにとって)です。頑張ってください。



八木 庸子

父母の開きし蜜柑山のひとところ遠く相良の海が輝く


評)
五首ともに生活についた作法で危うげがない。今度はそれをぶちこわす段階かもしれないよ。最も抒情性の濃い一首を選びました。



大窪 和子

水に挿すパセリに窓の風かよひキーボード打つ時を忘れて


評)
ふとパセリの風に気付くあたり、さすが。二首目も個性的で良いと思う。三首目弱い。
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