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○
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高橋 美千代 |
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雨の匂ひ帯ぶる夜風の吹きこめる部屋に急患の搬入を待つ |
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ドア開き夜風とともに擔送車鳴りわたらせて急患の来る |
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評)
厳しい仕事のなかの自己を叙情性豊かに捕らえられた。 |
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○
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としえ |
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明けの明星輝くしたに魚市場今灯を点し人つどいそむ |
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朝焼けの港に帰る船団の従えてくる鳥の一群 |
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評)
もう一首の歌から、終夜勤務明けの叙景の歌とわかる。印象が鮮明で美しい歌である。 |
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○
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桑原 真美子 |
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暗闇をつらぬくように雨が降る舗装路にかすかにひかり乱れて |
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出向して君なき机に幾たびも目が行きてモニターに集中できず |
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評)
一首目、よく自己を見詰められた。表現されたものは雨のひかりではあるが、そのうしろにはきっちり自己が投影されている。二首目、揺れる心がよくでた。 |
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○
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かすみ |
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霙より雪になりゆく気配して路傍に点り自販機の立つ |
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帰り来ぬ人と知りつつ待つわれの耳朶に貼りつく秒針の音 |
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評)
兎に角この作者の粘りに感心。骨を折って練りあげられた作品の後に、作者が息づいている。叙情性豊か。 |
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○
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長沢 英治 |
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鬼やらふ声にぎはひし長屋いま更地となりて闇にひろがる |
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いつになく声張り上げし父親を思ひつついま鬼やらふ吾 |
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評)
着実な詠いぶりで、実力がある作者と分る。移りゆくものを見詰める作者に同感。 |
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○
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けい |
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行きづまる気持抱えたわれの目が揺れる電車の窓に映れり |
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息白く歩める夜道にゆっくりと雪は舞い来る空の奥から |
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評)
若者の孤独感がよく出ている。屈折した思いがひたひたと伝わる。歌に対する、ひたむきな姿勢がいい。 |
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佳作 |
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○ |
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廣 |
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一夜にて高架電車にきりかはり電車の窓にやまなみをみる |
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抗へど電車は高みを走りゆく「反対」の旗立ちならぶうへ |
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評)
秀作に上げたかった作。今を詠うという事そのものだ。単なる傍観の歌のように見えながら、心がある。 |
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○ |
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あいこ |
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残照を映す水面のきらめきはやがて暗緑の光を生みぬ |
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評)
これも秀作に上げたかった作。皆この作者の作は初々しくて、いいぜひ次ぎの作を見たい作者だ。じっと水面をみる作者が彷彿とする。 |
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○ |
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大窪 和子 |
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リズムに乗りて踊るといふは何ならむたちまち心放たれてゆく |
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評)
実力のある作者の力がそのまま、出ている。この解放感はどこから来るのか、自分の体の不思議さを思っているのである。 |
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○ |
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蓬 |
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朗らかなその声にさえ苛立ちてたてよこの計算ひどく手間取る |
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評)
手馴れた詠みようは作者の一連五首に表れている。この一首は職場の一齣なのであろうが、この苛立ちがどこから来るのか、焦りというより、鬱屈とした、胸の内が分る。 |
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○ |
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つね姫 |
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叔父の入院告げる電話の中に聞く窓を揺さぶる冬の風音 |
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評)
外の歌の子供さんの関わる歌も、手垢がついてないところが面白いが、今月はこの歌が纏まっていていい。 |
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