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今月の秀作と選評




雁部 貞夫(新アララギ選者)


秀作




聞く振りしてグリーンサラダを混ぜているタバスコ少し利かせてみたわ

おにぎりを食べて眺める噴煙にイラクの話もどこか他人事(ひとごと)


評)
なかなか達者な詠みぶり。批評眼を持った作者だ。



さちこ

曙の色広がれば病室のカーテン開けて回診を待つ

嬰児を寝かせて読みし「異邦人」今読みがたし老いの眼(まなこ)に


評)
「・・異邦人」の作に感服。



かすみ

緑淡きイロハモミジのそれぞれに小さき紅き花の寄り添ふ

シグナルのランプの中に描かれて何処へも行けぬ帽子の紳士


評)
「帽子の紳士」は改作して良くなった。粘り勝ちだ。



あいこ

栄光の重きを背負えるブーニンの始めの一音息つめて聴く

はにかみて拍手を受けるブーニンの安堵の笑みに清しさの見ゆ


評)
一連良い作品ですが、「長き指の」は苦心した割りに迫ってこない。「ひたと・・」がよくないのだろう。ふつうは「ひたと」だが古臭くなる。



伊藤 圭

おはようと声を掛けても知らん振り蒔いた種とはこのことなのか

楽できて給料貰えて早帰り栄転かもね気は持ち様だ


評)
ちょっと直して採った。一連できが良い。強さを持った作品だ。


佳作




ようこ

初々(ういうい)しく五月の風に揺れる苗植付け済みて光る水田(みずた)に


評)
写実的にして情感あり。




くれなゐに石榴の花は咲き出でて単身赴任の暑き夏来ぬ

よるべなき部屋に病みをれば窓越しに吾を見守る石榴の実ひとつ


評)
実質的な歌いぶりに好感を持った。



はるか

誰からも忘れられてる週末の私は淋しい透明人間

とろぅーりと隣家の屋根を照らしつつ未明の満月やや西にあり


評)
ユニークな感性の作者だ。



大志

山を下りしハイカーわれらデパートの香水売場を足早に過ぐ

湯上がりの石鹸にほふ君を乗せ小路の闇を自転車漕ぎし


評)
昔、僕もこんな経験がある。なつかしい歌だ。



遠野

病みし後日々に挑みし裏山の一月(ひとつき)を経て頂きに立つ

苦しみて後に見え来る心の襞その闇照らす灯有りや


評)
「苦しみて」のような歌は作るのがむずかしい。下手をすると「道歌(どうか)」のようになってしまう。この添削くらいで出来上がりであろう。



高橋美千代

イラク戦にニッポンの老共産党員(コミュニスト)アメリカ処女を執拗に責む

せつなさに小走りにゆく街はづれ祭りの花火遠く響けり


評)
「イラク戦」の歌はこれでよくわかるようになった。



keiko

見舞ふたびに意識さまよひゐる友の「まだ治らん」と言へば胸刺す


評)
「・・治らん」のところは「・・治らぬ」として意味をはっきりさせたい。原作の方が言った友の口ぶりが感ぜられるかも知れないのだが。



としえ

白き花好むはこころ冷たしと言われて君に思い告げ得ず


評)
相聞歌は青春の花である。



みどり

職場より夫貰い来しクーポンの銀婚の旅プラン練りゆく


評)
この夫にしてこの妻あり。



石川一成

踏切りに再び警報鳴り響く休止の鉄路にきょう試運転

老人の部類となれば問わるらし住民調査に子らの住所を


評)
「踏切りに」の作が力強くて良い。結句を締めたい。



ぷぁ

犬小屋のぽっかり空きしその中に脚をのばせる野良猫一匹


評)
一連なかなか良くできています。

☆ 選外の作はよく研究を重ね、推敲を重ねてほしいと思います。


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