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今月の秀作と選評




小谷 稔 (新アララギ選者・編集委員)


秀作



高橋美千代

手術(オペ)台の父をまともに見得ざりき狭き術野となりて見つむる

常の手術のやうにし得るやオペ台に横たはる父の娘にもどりて


評)
職業人意識と実の娘であることの間でゆれる心理をよく捉えた。



あいこ

見えぬ眼に光差し込む瞬間か濡れし草葉をジョンはまさぐる

背をなでて幾たびの夜を過ごししかこの夏もジョンも逝きて還らず


評)
愛犬の死を甘さを断ちきって表現した。



かすみ

罰として紅茶を砂糖ぬきにするしきりにひとを羨みしあと

捜しもの見つからぬまま夜の更けて静かに今宵のウィンドウ閉づ


評)
微妙な心理表現と柔軟な感性の作。


佳作





ご来光見むとて暗き岩道を吾も光の列の一粒


評)
富士登山。下句の描写が光る。



大志

無人駅の日向の匂ひともなひてノースリーブの少女乗り来る


評)
この作のみは他の作に見る予定感動ではなくて新鮮。



川嶋富士子

癒えたりと思ふこの手にまだ重し新しきままの漱石全集


評)
漱石全集で作者の品性も知性もしのばれる。



さちこ

日差し除けビルの谷間に出番待つ時代祭りの馬首たれて


評)
脇役に注目したのがよい。



石川一成

抜かれまじ隣るコースに人迫る競うにあらねどプールに力む


評)
力んだ緊張感が調子にあふれている。



久住誠鶴

山茶花の枝に横たふくちなはの脱け殻ゆらし朝の日の差す


評)
前月の海の歌すばらしかった。今月は細かすぎた。



けいこ

あっけなく友逝きしよりひとしおに一日ひとひのわが生を思う


評)
身近な死ゆえこの感あり。


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