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今月の秀作と選評




吉村 睦人 (新アララギ編集委員・選者)


秀作



高橋美千代

浄らかな夕日廊下に満ちてをり病やしなふひと等の椅子に

こびとになりあさがほの蔓のブランコこぐ展覧会の子の絵にあそぶ


評)
一首目、病やしなう人らに暖かい目がそそがれている。
二首目、母親が子の絵の中に引きこまれている。



石川 一成

わが町に情報化の道広めんと夢持つ人ら今日集いたり

これよりは電子会議を試さんと我ら互いにアドレスを交わす


評)
二首とも、今日的課題に立ち向かう思いが、きびきびと描き出されていて、快い。



長  閑

さらさらに布を晒しし多摩川をのぞむ団地に新居もちたり

いにしえの防人ならねど今の世も企業戦士は単身赴任


評)
一首目、一、二句が序詞的でなく、全体に融け込んでいる。
二首目、これも「防人」と「企業戦士」がよく結びついた。



か す み

親不孝のわれに代はりてコロボックルがちさき団栗供へてくれぬ

早世の父母(ふぼ)の残しし運勢を貰ひてわれは恵まれてをり


評)
しょっちゅうお参りできない両親のお墓に対する思いを、明るく前向きに述べた。ご両親も認めて下さるだろう。



あ い こ

帰り行く心残りて振り向けば夕日の中に君が微笑む


評)
「残して」でなく「残りて」である。そういうところ着実に表現されている。


佳作




hana

無言館に展示されゐる手紙の少女幼き吾と写る曾宮夕見さん

するめ焼く匂ひのこもるSL列車にダルマストーブ赤あかと燃ゆ


評)
いろいろ説明しないで、簡潔な状況だけから、深い感銘を導いている。二首目も状況だけ。それで感じを出し得た。



ぷ  あ

子の友の輪禍に逝きしその場所を速度ゆるめて車走らす

いま一度「おばさん」「まさしくん」と呼びかくるのっぽの君の大き声聞きたし


評)
この一首目も状況によって感銘を表わすゆきかたである。これだけの二首目で、「君」の人となりが描き出されて、読者にも惜しい人を亡くしたという作者の思いが、いかにもさもありなんと思われる。



大  志

遠き地の子に頼らむと老女去る亡夫(つま)と築きし屋敷を捨てて


評)
限度いっぱい頑張った「老女」なのであろう。



新  緑

シャワーでは物足りなくてゆったりと湯船で癒す秋のお彼岸


評)
「癒す」のは何か言わないのは、特に何処かの病気や怪我ではなくて、日頃の心や体の疲れであろう。その感じが出た。



久  住

知恵薄き吾が子叱れば手のひらに涙受けつつ黙し頷く


評)
親子の美しい情愛の姿。



け い こ

殺生は悪きこととは知りつつも朝ごと畑の菜の虫潰す


評)
下の句の具体があって生きた歌。


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