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今月の秀作と選評




雁部 貞夫(新アララギ編集委員)


秀作



近藤 かすみ

とりあえず言うべきことを言っておく聞いてないとは言わせないため


評)
「川に沿ふ桜並木の紅葉に時雨走りてのちの寂しさ」の作も秀れていて良いが、この思いきった口語の歌もきっぱりして良い。



長閑

親に威厳ありし時代の母なりき今は先輩そしてメル友


評)
この作者の一連の作もレベルの高い作で甲乙つけ難いが、母と自分の関わりを巧くまとめた、この作を秀作とした。



ぷあ

湯布院の町をすっぽり覆いいる雲海目がけてわがバスは入る


評)
「空間と時間」の表現が活きいきとしている。



としえ

新しき万年筆に綴りゆく今この時をとどめんとして


評)
共感を呼ぶ内容の作。万年筆を使う人は少数派となったが、エールを送りたい。他の作もレベルが高い作だ。



hana

「カギになれ」と幼き吾は叫びたり雁渡りゆく空見上げつつ


評)
幼い日の郷愁が、十分に表現されている作。「カギになれ」がよく利いている。



けいこ

家事講習に見出でし家計簿50冊80余年の彼女の歴史


評)
事柄だけを歌っているようだが「家計簿50冊」を眼前にした様子が端的に詠まれている。


佳作




石川 一成

手伝いに来し我なれど何時しかに作業指図す子の引越しに


評)
この歌が一番実質的で良い。他の作はやや軽い。



高橋美千代

菊紋の軍刀ぬきて脚のなき翁に気迫みちくるあはれ


評)
工夫のにじむ作だったが、内容の重さを十二分に伝えるには、もう少し整理する必要があったと思う。




今朝もまた人身事故らし社員から出社遅るとメールの届く


評)
「人身事故」を詠んだ一連では、この作が最もすっきりしている。



大志

ボーナスの考課を終へし帰るさのエレベーターに目瞑りてをり


評)
作者の生活感情がよくあらわれている。



ゆせ

風呂入り今日も一日「終わったなあ」と勝手に何かを自白する心


評)
3首とも肩の力を抜いた詠みぶりで、その中では、この1首が良いと思った。「・・自白する心」はもう少し工夫する余地あり。



新緑

日にちにしたためている連用日記患いてより三年目なり


評)
結句「し」は不要。「杖の手に階をゆるりと降り行けば声かけくるる茶髪の少女」も良いが、こちらをとった。作者の境遇が巧まず出
た作。

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