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今月の秀作と選評




倉林 美千子(新アララギ選者・編集委員)


秀作



ぷあ

風花の舞う駅に降りマッチ売りの少女の世界に誘われゆく
道端に乗り捨てられし自転車のバックミラーに夕日が光る


評)
今回の五首、それぞれに一人立ちできる力作。中で一首目は、同じ手法は使えないぞといった危うさを残しているが、美しい抒情性を認めてあえて推した。



としえ

冷えしコーヒー口に流してまた向かう老人救急の夜の電話に


評)
作者の働く現場が緊迫感を伴って見えてくる。仕事の歌の少ない昨今、貴重な一首。「北風にあおられて」の歌も良いが、「ゆくえ」のつぎに「を一人」を入れてリズムを整える。



長閑

高きよりらせん描きてユーカリの古葉次々風にふかれ来


評)
難しい旅の歌よくまとめました。これが特殊な光景を最もダイナミックに表現出来たと思います。



高橋美千代

砂糖菓子のサンタ今年はゆづる娘の横顔いつか少女さびたり


評)
少女の行動を捉えて、その成長をほのぼのと感じさせる作。「娘」は「子」でいいでしょう。「少女」と出てくるのだから。



新緑

ジングルベルの曲に合わせて杖をつく今購いし靴も軽やか


評)
「杖をつく」が効いていて何ともたのしい。他の四首、技術的には不足だが、それぞれに人間の温かさを訴えようとしたもので努力賞なり。「今購いし」は「買いしばかりの」とした方が歌柄にあうかもしれない。


佳作





萱葺きの社の屋根に芽吹きたる杉の瑞木の清しきみどり

高千穂の豊穣祈る夜神楽の戸取(ととり)の舞に外の面明るむ


評)
神社や夜神楽など、題材としては難しいものだが、作者自身側から受け止められた感動が歌われているので新鮮。



石川一成

砂浜に流れ着きたる塵芥ハングル文字の容器の多し


評)
日本の海には様々なものが流れついて多くの流離譚を生みました。この塵芥にどういう意味を重ねるのかわかりませんが、私には個人的に興味をそそられる一首でした。



近藤かすみ

ふくふくととら豆煮てゐし祖母(おほはは)と母のまぼろし厨に立てば


評)
大晦日を思わせる遠い思い出。心を誘う。空の歌三首は即席のためかもう一歩。



けいこ

動乱の国へ旅立つ隊員を見送る人ら手を振りやまず


評)
現在の世を表すものとして残しておきたい。



ようこ

危ふくも舞ひ狂ふ雪に魅入られて夜のドライブ静けさの中


評)
現実の中で幻想的な場面をとらえていて詩を感じる。「静けさ」は私が何か言ったと思うが、この作の上の句の重さを支えるには、漢語にして「静寂の中」としたい。



石田聖実

いらいらをイノダコーヒの赤缶で癒してしばし景色眺むる


評)
何か現代的な若々しい空気がある。結句、「景色」だと、あちこち首を回しているようなので「空」一点にしてはいかが。コンビニの歌もなかなか良い。



ゆせ

息吹けばそっと揺れる紙切れよ 妙に気に入りしその正直さ


評)
短歌のリズムを。「そっと揺れたる」。今の感情だから今で表現。「妙に気にいるその正直さ」。気に入ってその後何度もやってみたのかな?面白い作。



宮野友和

冬の陽のやはらかきかも小さきがややうつむきて前を歩める


評)
「小さきが」でなく「幼きが」が良いでしょう。あるいは「小さき子が」。穏やかな良い作になります。ただ五首中三首に「かも」が用いられている。この詠嘆の助詞はもう現代短歌にはなかなか生きにくいとおもう。古い語感と大袈裟な感じを伴うので。



大志

人よりも二年遅れて大学に滑り込みゐしわれの成人


評)
この成人の日の歌五首、どれにも深い気持が込められている。それが良くわかる。けれど作品として読むと言葉に少しずつ無理がある。例えばこの結句なども途切れたようでしょう。大学に入ったのに「滑り」も使いたくない。滑り込みセーフという気持なのだろうけれど。「人よりも二年遅れて大学生になりゐきわれの成人の日は」最後に書いたから下手なのではないんですよ。内容があるのに惜しいから特に言いたかった。きっともう少しでここを越えられるでしょう。

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