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○
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大志 |
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新しき社員を迎ふる部屋べやに寮母の入るる三月の風 |
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目標に届かぬと知る三月の日々なほ励むセールスコールに |
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評)
三月をテーマにした作。寮母の心を中心にした視点が特によい。二首目、サラリーマン生活の実地をしっかりと捉える。感情を露出せずに感情をこめ表現力がよい。 |
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○
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としえ |
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日々バッグに老眼鏡を入れ歩くこの惨めさは思わざりにき |
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操られいし人形がその糸を緩められ舞台に伏して動かず |
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評)
老眼鏡という生活の些事を材料にして、生の哀しみに触れている。操り人形の作、人形を凝視して、一つの人生の生き方を思わせる。 |
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○
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宮野友和 |
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品川にみぞれ降りしきる昼つ方営業車休め少し眠りぬ |
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かく物を思ふは稀なり休日のオフィスにひとり頬杖をつく |
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評)
仕事の歌として、生活の陰翳が出ているのは力量が感じられる。 |
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○
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新緑 |
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丹波にも鶏病発生のニュース聞き心臓高鳴る同業の吾 |
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身障者用のマークを知らぬ病院の管理の人に法規を見せる |
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評) ニュースは所詮、受け売りでつまらないが、自分とのきびしい接点があればよい。同業の吾で生命を得た。二首とも具体化の表現でよくなった。 |
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○
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長閑 |
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肩に触るるしだれ柳の芽の息吹確かめ通る春を待つ日々 |
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評)
月並みで平凡な柳を肩に触れるその芽の息吹によって新鮮な作とした。 |
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佳作 |
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○ |
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けいこ |
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小春日の山のみ墓に登り来て母にそなふる縮緬小菊 |
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評)
言葉が自然に運ばれ、下の句に情感がこもりました。 |
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○ |
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西田義雄 |
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駅前に一台残りし自転車の違反ビラ濡らし氷雨降りおり |
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評)
自転車の駐車違反の目に余るのはどの都市にもあるらしい。下句その荒涼感が印象的。 |
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○ |
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たえ |
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山あいの薬草風呂から出てくれば弥生はじめの粉雪の散る |
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評)
温泉ではありふれていますが、山あいの薬草風呂というのが感じがよい。 |
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○ |
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けい |
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苦さ混じる恋の映画を見て来た夜まだ眠らずにカフェオレ淹れる |
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評)
自室でなく映画館で見たように推敲してよくなりました。 |
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○ |
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つね姫 |
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転校の挨拶をせし校庭よ修学旅行帰りの夕べ |
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評)
思い出としても特殊であり、挨拶のその時と場も思いが深い。 |
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