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今月の秀作と選評




雁部 貞夫(新アララギ選者)


秀作



としえ

南風吹き込む部屋に頬杖をつきて思いは堂々めぐり


評)
この歌の持つ若々しい感覚を採った。なお、「昼過ぎのコーヒーいれてたちまちに夕餉の支度が追いかけてくる」も良い作品だ。



新緑

闘病は神仏(かみ)の与えし試練だと義足の人が励ましくれぬ


評)
しっかりした歌で秀れている。また「左麻痺のこの不自由も挑戦だ励みに短歌を今日も詠みたり」「先客が杖突く我に笑顔にて買物のレジを促しくれぬ」の2首も良い歌だ。



山本道子

夫と吾うつはを愛でて年ながし有田に来しは幾度目なるか


評)
一連の作品みな秀れている。「染め付けの伊万里の大皿手に取りぬ鯛素麺を吾は盛りたし」と、どちらにするか迷ったが、この作品を秀作とした。



大志

川下の水道橋にわが歩む遠き影あり夏の夕ざれ


評)
絵画的な作品で詩情のあるところに特徴がある。そこが良い。



石川一成

新たなる子の赴任地の町並みを思い描けり地図を眺めて


評)
他の作品もすて難いが、この作品が一番良かった。


佳作




けいこ

部屋いっぱい白百合の香の充ちあふれ梅雨の憂鬱吹き飛ばしいく


評)
「初採りの山椒の実の青きつぶ朝餉の卓の小鉢に香る」もよかったが、この作品の下句の勢いを買いたい。



とも

人知れず放課後教室を掃除する先生(あなた)を知るはたぶん吾のみ


評)
内容はこれで十分。先生は敢えて「あなた」と振りかなを振らなくて良い。



ゆせ

やんわりと心に浮かぶさみしさよグラサンかけしもその頃のこと


評)
「グラサン」は気になるが何となくわかるのでそのままとした。



長閑

野球選手の薀蓄語るわが母よ一人居の日々長く続きて


評)
毎日の野球放送を見ていると元々知らなかったこともいっぱしの専門家のようになる。そこが面白い。



西田義雄

吟行に連れ立つ人の皆若く咲く花に嘆じて飛ぶ虫に沸く


評)
下句の対句が人によっては気になるとは思うが、一種の味わいがある。



近藤かすみ

知らぬ間に庭の躑躅は開きたりわれの不在を責めゐるごとく


評)
一連の中ではこの作品が最も存在感がある。



宮野友和

午後の光がカーテン透かし射す室にエアコン室外機の唸る音を聞く


評)
「風巻きて利根の岸辺の草靡く俺は小さな子供であった」の方が良かったかも知れぬが、より本格的なので、これを採る。




雨垂れの音の源突き止めしただそれだけで心静まる


評)
「源」は結局どこだったかは、読む人が色々と考えれば良いことになる。それで良い。


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