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今月の秀作と選評




青木 道枝(新アララギ会員)


秀作



宮野友和

多摩川の中洲に茂る夏草の丈の高きを踏み倒し行く
営業車のエンジン止めたり車外には幟はためく音のやまざり


評)
若い感覚と、勢いと。生きる日々の中で歌を作ろうとする姿勢に、つよく共感する。



中田満帆

やはらかに飛べる烏をうらやみて両手いつぱい広げてゐたり
ぬばたまの夜にレールが敷かれゆき静かに満たすわが青年期


評)
自分の感じたことを、ゆったりとした調べに乗せている。2首目、わからない内容ながら、不安定な青年期の心がうかがえよう。



かすみ

吾を産みて安らぐ思ひに賛美歌より「めぐみ」と名前つけしわが母
母の齢いつしか越えて生くるわれ手本をもたぬさびしさ覚ゆ


評)
歌にして残しておきたい、大切な思いであろう。むずかしい内容を、やわらかく、うたい出した。



山本道子

原爆で逝きし義兄は詰め襟の姿のままと姑は書きくる
本を読むやうだと喜ぶ姑に宛てパソコン使ひ文したたむる


評)
「詰め襟の姿のまま」が、読む者のこころに痛い。2首目、お姑さんの言葉が、一首の中で生きていよう。



新緑 *

わが思いを相づちうちつつ聞きしひと別れんとして強く手を握る
麻痺ゆえに片手で本を読みおればナースは注射の台貸しくれぬ


評)
ふとした時に触れて来る人のあたたかさ。その折をうまく切り取り描写し、内面にまで目を向ける。


佳作




大志

正面に見据ゑることのはばかられ見合の席に飲むレモンティー
見合より戻りし吾子は「疲れた」と一言残し己が部屋へと


評)
息子さんにかかわる出来事の中から、一連の歌が生まれた。1首目、結句のレモンティーが、はからずも、微妙な味わいに。



石川一成

高層のビル並びたつ東京に古き記憶を重ねて歩く
入院か海外旅行か「連絡を暫し絶つ」との友よりのメール


評)
歌を作り慣れた方の、安定した詠みぶり。2首目、作者の年代を思わせる内容を、からりとした詠み方で。



としえ *

とても大きいとても明るい今日の月何かよきこと明日あるような
月桃の花のめぐりのはなあかり静かなる夜と見上げて立てり


評)
1首目は原作のまま、2首目は、ちょっと苦労しましたね。のびやかな、童謡のような1首目、作者の持ち味か。



けいこ *

向日葵がむしょうに恋しく春播きし種なり朝日に向かいて咲けり


評)
「向日葵がむしょうに恋しく」という強い思いが印象的。下句も、その思いをしっかり支えている。他の2首も素直。



ゆせ *

ゆらゆらと酔いにほふらるる我が姿誰も探さぬ赤子かな


評)
どこかユーモラスで、哀感も。見捨てられた赤ん坊のようだと自分を言うところ、わかりにくい。結句は「〜赤子のような」としたら。


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