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今月の秀作と選評




小谷 稔(新アララギ選者)


秀作



米安 幸子

卓上に青き松毬乾きつつかぐはしき香のいまだもしるし


評)
台風の置き土産 台風をまともに詠むと型にはまりやすい
搦め手から攻める戦法もありますよ



としえ

曼珠沙華と去りたる母の記憶とが重なりあうを誰にも言わず


評)
この花が華やかなだけに沈黙の悲しみが倍加す



大志

うかららに臥す者もなく過ごしをり鶏頭五本けふは咲きゐて


評)
鶏頭の花が他の花に代えがたい効果
老成した作



山本 道子

病む母に白桃小さく切り分けて食のすすむをともに喜ぶ
吾が死後は無縁仏とならむ墓眠れる四人は原爆に死す


評)
第二, 三句にたどり着いたすばらしさ
核心を捉えることとは こういうことです
・二首目はいい歌を入れ忘れましたと、小谷先生があとから挿入されました。(大窪)



新緑

麻痺の足につける装具の調整に紙の粘土を添えて試しぬ


評)
下句 その人でないと 捉えられないもの
それが 作品の 命



かすみ

頓服の赤き薬包紙ひろげては熱をさまさむひとりの夜更け


評)
上句 宮野さんに絶讃されたもの
こんなささやかなものに 光をあてるのが 短歌の特性



宮野 友和

この暮れは二十九歳にわれはならん源実朝すでに死したり


評)
若くして万葉調を愛する作者,その点で実朝の夭折をかなしむ



美穂

秘めて持つ立杭焼の盃よ笑う女の裏は夜叉なり


評)
人の二面性は特別なことではないが 盃を使つた意外性


佳作




宮野友和

防音壁に繁る蔦草しばらくは営業車停め眺めて居たり



ようこ

夜明けまで台風に耐へし躑躅手になごり風避け部屋にとりこむ



けいこ

夏かけて励みしピアノの演奏会終えて出できぬ不定愁訴は



新緑

補導せし子らの呉れたる千羽鶴彼らの職に就きたりと聞く



かすみ

ひと里に近く咲きたる彼岸花人に疲れて帰る家路に



美穂

ネツトにて台風の被害言ひ交はす休めぬ仕事もつをかこちて



大志

幼な子の背丈に屈みヤブランの花穂にかるく手を触れて見す



石川 一成

夕光の射せる刈田の続くなか列車は走る影伴ないて



としえ

吾が裡に母の記憶と彼岸花暗き赤にていつも残れり



米安 幸子

伐り通しに沿へる木下の暗みゆき羊歯のひとむら暮れ残りたり

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