|
○
|
|
かすみ |
|
金色の穂波の上に鳥追ひのCDは日を乱反射する |
|
雨晴れて秋の日の下古本の匂ひの濃くなる知恩寺の道 |
|
|
評)
焦点を定めて情景を描写することに努め、水準の高い叙景歌とした。次も執着して練り上げた。4句は、「の」を省き「匂ひ濃くなる」としたい。他の歌も悪くない。 |
|
|
|
○
|
|
宮野 友和 |
|
薄明の布団にありて窓外にしき降る雨の音を聞き居つ |
|
電車より束の間見えし皇居の森低く沈みて空広がれり |
|
|
評)
アララギでは「ありのままを写す」ことを大切にしてきた。が、緊張を欠くとただごと歌に終ってしまう。その点、これらの歌には心の反映があり成功している。
|
|
|
|
○
|
|
山本 道子 |
|
保険書に隠して被爆者手帳出す母に代はりて来し受付に |
|
入院費払ふ日来れば被爆者の母は無償をいまも恥ぢらふ |
|
|
評)
前者は作者が、後者には作者の母が歌われているが、核となるところを捉えて被爆者の心を訴える歌となっている。「裏山の」「並ぶ位牌の」の歌も、それぞれ味わいがある。 |
|
|
|
○
|
|
米安 幸子 |
|
金星と垂直の位置に近づける暁の木星を夫と仰ぎぬ |
|
巡礼者の絶えざる聖地に何がなし心許なかりき異教徒吾は |
|
|
評)
おとなしい歌になったが、単なる事柄に終っていないものがある。「窓にふたり」の歌も、これと並べれば充分に味わえる。後者は連想による追想歌だが、悪くない。
|
|
|
|
○
|
|
新緑 |
|
病院を出づればいきなり強風が杖つく我に襲いかかり来 |
|
エッセイを読みたる友の励ましに意欲新たに続編を書く |
|
|
評)
その場の状況が窺えて、作者の姿が思い浮ぶ。後者も、心意気をよく伝えている。「扉止め」「映画館」の歌もなかなかの歌。 |
|
|
|
○
|
|
けいこ |
|
宮参りの孫の面立ち浮かべつつ薄紅の地の衣装選びぬ |
|
南国の故郷に戻りひさびさに三脚立てて撮る四季桜 |
|
|
評)
両首、作者の行為を述べているのだが、そこにこもる心が感じ取れるのでよい歌となった。 |
|
|
|
○
|
|
石川 一成 |
|
唐突に妻逝きたれば通帳のありかも知れずと友は嘆かう |
|
ようやくに飯炊くことに慣れたるか妻を亡くせし友の日々思う |
|
|
評)
作者自身の問題でない弱さはあるが、実に即して友を思う心が伝わる。
*「亡くせし」は、本来は「亡くしし」。(カ変サ変以外は連用形につく)私達はこの本則を大事にしてきた。 |
|
|
|
○
|
|
としえ |
|
朝の日を受けてまぶしき石蕗を夜勤帰りの脚止めて見る |
|
紅葉を忘れて散れるこの年の木々らはすでに新芽を抱く |
|
|
評)
両首心の動きを感じ取ることができ、好感が持てる。ただし、「脚」は「足」とする。(足には歩みの意味もある。画数の多い字をよしとするような風潮に流されないでほしい。)後者の2句も、「せぬまま散れる」などと、直接的に歌いたい。「救急連絡」の歌もよいものを湛えている。 |
|
|
|
○
|
|
大志 |
|
銀杏の実踏み砕かれて匂ひ立つ夜半の団地の道を帰り来 |
|
|
評)
「夜半の団地の道」がポイント。結句は「帰り来ぬ」とした方が落ち着く。「蒼きギンナン」の歌も面白い。 |
|
|
|