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○
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新緑 |
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気づかひて前後に友らが声かける中をバックで階を下りぬ |
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石段を下りるに杖のぐらつけば丸く減りたるゴムを取り替ふ |
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評)
身障の身をひたむきに生きる姿に感銘を受ける。いずれもその人でな
ければ出来ない具体的な把握がよい。
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○
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熊谷 仁美 |
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カーラジオの懐かしき曲終わるまで遠回りする勤めの帰り |
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もう君を想うことなき夜の道満月はただの満月となる |
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評)
女性の車がすっかり一般的になったが働く女性の生活感覚にすっかりなじんだ車の歌として感銘を受けた。二首目の下句、むずかしいところを簡潔化した。短歌のもつ形式の強みを想う。 |
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○
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宮野 友和 |
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床の辺のペットボトルにゆらゆらと光射しゐつ遅き寝覚めに |
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壁に射す弱きひかりに真裸のふたりもの言はず横たはりをり |
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評)
多彩な試みを見せる作者であるがこうした現代の若者の微妙なアンニュイを滲ませた生活詠が独特である。 |
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○
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大志 |
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二段ごと駅の階段駆け下りて電車に乗りし日々遠ざかる |
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いつよりか五分前には駅につきしづかに電車を待つ身となりき |
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評)
電車通勤によせてみずからの過ぎた若さへの哀惜を詠む。素直に共感できる歌。 |
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○
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英山 |
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信仰の山のきざはし雪が舞ひ道のしるべの地蔵の白し |
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種々の山のめぐみや蕎麦の実の新しき味曲り家で食む |
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評)
旅の歌。どちらも下句の臨場感のでた具体的把握がよい。「種々」は、くさぐさ と読む。 |
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○
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石川 一成 |
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海外へ共に旅する日のあれと子の言い出づるをひたすらに待つ |
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若狭富士に雪の残りて山の端は境分かたず霞める空に |
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評)
子とともに旅が実現した歌ができたとしてもこの待つ心の歌のほうがいいという短歌の皮肉。第二首は四句切れで結句は倒置法の表現。 |
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○
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小林 久美子 |
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街角にて小さき鰯さく媼なつかしき竹の箆使へり |
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目の前に霞める島は借島か響灘越え風が頬打つ |
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評)
竹の箆を見つけたこと、それをなつかしと感じたこと、働く老婆への視線があたたかい。借島は万葉に出てくる島の名。下句が簡潔でよい。 |
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○
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としえ |
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サトウキビ茂れる中を通り過ぎ広がる原へ青々き海 |
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評)
沖縄の旅、下句の「へ」の畳み掛けた伸びやかな展開がよい。 |
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○
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けいこ |
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城山よりのぞく望遠レンズには内海凪ぎて巨船停まれり |
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評)
下句の鮮明な把握が印象的。 |
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○
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和田 紀元 |
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後絶えし祖父母の家は傾きて椿梅こぶしいま花のとき |
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評)
こんな家が増えつつある。庭が華やげば華やぐほど寂しい。 |
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