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○
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石川 一成 |
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輸送船にわれらを見送りタラップを降りゆきし父のその後を知らず |
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父残しサイパン港を出でし夜はただ泣きおりきわけも分からず |
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評)
遠い日の思い出だが、作者にとって忘れられない日であることを納得させてくれる。 |
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○
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大橋 悦子 |
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父は窓の雲を描きて過ごす日々白のクレヨンのみが短し |
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疎遠なりし二十年過ぎ父の日に我を待つという父よ我が父 |
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評)
作者と父との状態が充分に感じられ、特に一首目、その事実の中に深い詠嘆が聞こえてくる。 |
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佳作 |
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○
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英山 |
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春しめぢ肝臓茸など亡き友の愛せし茸(きのこ)の話題は続く |
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電気街の流れはぎらりと日を受けて岸辺あらはに咲く花もなし |
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評)
亡き友を懐かしむ友人たち、この場合作者だけが偲んでいるのではないところが良い。二首目は都会の一点描として。 |
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○
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小林久美子 |
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庭に干しし真白きシャツの裾に映ゆ今を咲きゐる露草の色 |
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おほかたの家には赤きサフィニアの咲き揃ひをり駅へ行く道 |
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評)
日常の身近な素材ながら、静かな感性を受け止めた。体言止の多いのは要注意。 |
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○
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大志 |
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消え急ぐ言葉を娘らはケイタイに置きつつ探るけふの幸せ |
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若きらの議論に交じり野放図なる言葉を投げしけふを悔やみぬ |
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評)
若い人たちと接触のある作者なのであろう。「消え急ぐ言葉」「ケイタイに置く」、言語生活の変遷を思わせる一首だ。 |
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○
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中村 |
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十とせ前いとけなき子の埋めし種枇杷は軒端に実をつけ始む |
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会釈して講義へ急ぐ学生の朝は化粧の香を残しゆく |
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評)
いとけなきころの子を思っての感慨。年月は早く過ぎてゆく。二首目は、健康な少女たちとすれ違う一瞬をよく捉えている。 |
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○
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西井 |
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五六粒一息に飲む薬の中苦きが混じるどれと知らねど |
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評)
事実を言っただけだが、わびしさが身にしみる。ATM機の作、もう一歩。来月ぜひものにしてほしい。
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○
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けいこ |
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娘らのベビービクスに出でしあとひとりあるきぬ甘草咲く道を |
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評)
静かな良い作。結句のリズムの乱れ(「田の面」の歌も)を何とかしたい。リズムは歌の大事な要素。 |
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○
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新緑 |
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「よくなったね」先生言ふが実感のさほど湧きこず麻痺のリハビリ |
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評)
真実の声を聞く思い。でもお互い諦めず頑張らねば。「募金する青年」の歌も良いが、結句「強く」は省ける筈。そしてやはりリズムを整えたい。 |
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投稿歌、ほんの少し添削を加えている。どう違ってきているか見比べていただきたい。 |