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○
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西 井 |
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灸がよし摩擦がよしと聞けばすぐ試みくれし母今は亡し |
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評)
他の歌に自身の病いを痛切に詠んだ作あり、それもよいが、母が自分に色々な療法を試みてくれたという歌が、深味が出ていて特に良い。
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○
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栄 藤 |
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七十七歳の命なほ惜し一日に三十分の歩行欠かさず |
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評)
前の方の作では、いつ逝っても不足はないとあり、秀作に選んだこの作は「命なほ惜し」と正反対のことを言っている。しかし、そんなに悟り切れないのは、生身の人間なのだと思えば納得できる。きっぱりとした危なげのない詠み口がよい。 |
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○
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新 緑 |
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盲導犬にひかれし人は足早に杖つく我を追い越し行けり |
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評)
犬に引かれた人の方が杖をつく自分を追い越して足早に行く、という所が常識的でなくて良い。歌にすべき所を見逃さなかった。 |
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○
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斎藤 茂 |
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腕組みて直子と歩むバージンロードどこまでも続けいつまでも続け |
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評)
バージンロードを嫁ぐ娘と共に歩む父親の気持ちがよく出ている。「どこまでもこの道が続いてくれないか」と願う男親の願いが共感を呼ぶ。スペンサー・トレシイの演じた「花嫁の父」(映画)を思い出した。娘役は若かりしエリザベス・テーラー。輝くばかりの美しさだったね。 |
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佳作 |
(佳作は秀作とそれほど差はないが、秀作は、それぞれ良い作品が揃っていた) |
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○
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英 山 |
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他の舟の若きに負けじと船頭は通る声にて舟歌歌ふ |
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評)
他の作品も悪くはないが、舟下り(川下り)の雰囲気と動的な感じが快い一首であった。
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○
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佐治 康之 |
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さやかなる秋のひかりにそまりつつオリーブたわわにみのる山道 |
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評)
オリーブという名詞の存在が淡くなりがちの一連の作をやや味のこいものにしている。 |
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○
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大橋 悦子 |
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別離せし父母は今でもわが夢にわだかまりなく語ることあり |
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評)
秀作の諸氏に較べてひけを取らない作。他の作も父を歌って共感を呼ぶ。 |
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○
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中 村 |
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地に坐してうちわ太鼓を叩く僧いくさをやめよと祈りを続く |
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評)
一連の中ではこの作が内容のしっかりした作品。余計な飾りのないところがよい。他の作もレベルの高い作品といってよい。 |
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