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今月の秀作と選評




倉林 美千子(新アララギ選者)


秀作



新 緑

片手利かぬ我を手伝ひくるる孫「何でなんで」と病む手を撫づる


評)
無心なお孫さんの行動だけを言っているが、胸のあつくなる感動を覚えた。「津田治子」の作も良いがこれに続けてはじめて意味を深めるという面がある。



英 山

屋根の雪下ろす家々そのなかに人住まぬ家雪に埋もれぬ


評)
淡々とした写生ながら豪雪の状景を目前に見るようで、点在する「人住まぬ家」の寂しさが迫る。「認知症の母を詠みたる吾が歌に宴の席の静まりてゆく」も良い。



西 井

ひそやかに噂流れぬピカドンはアメリカの新型爆弾なりと
被爆者の介護の班に選ばれしたまたまにわが命救はる


評)
原爆体験者の改めての回想だが、五首一塊として是非残しておきたい。独立一首とするとどれもが少し弱いが、連作として力を持つ作法も私は肯定したい。


佳作(順不同)



中 村

寒中の荒崎の岩に波しぶき浴びつつひとり海たなご釣る


評)
寒の海の荒々しさと孤愁のようなものが伝わってくる。自然に口をついて出た「医師となり」の歌も良いが、全体に言葉の斡旋にぎこちなさがみえる。もう一歩!



栄 藤

雪降れば思ひ出づるよ囲炉裏端父が縄綯ひ母がもの炊く


評)
「母さんが夜なべをして〜お父は土間で藁打ち仕事」という童謡を思い出した。モチーフに類型があるけれど、懐かしい歌。「ファイト」の一首も爽やか。



大橋 悦子 *

コロッケをひとつだけ買ひ菜とせり夫のおらざる夜は長くて


評)
入院中のお父さんを詠んだものも、気持は出ていたがもう少し整理不足。これが一番作者らしい個性が出ていて言葉にも無理がない。



石川 一成 *

道に溜る雪をようやく運ぶらしエンジンの音夜更けに響く


評)
これは骨格のしっかりした危なげのない作。今回言葉の斡旋が不十分で分かりにくい作が混じった。「バスの中で話すものなし」に、直ぐ「野辺の送り」が来るのは無理。



としえ

職場にて元日の朝を迎えたるわれにきみより励ましのメール


評)
本当は「連日勤務」の歌と共に採りたかったが、「時計」ではなく、「我は時の感覚もなし日にちも覚えず」と言うことではないかと思う。ほっとした掲出歌、完成度も高い。



みどり

氷浮く川面に浮かぶ鴨の群れ飛び立つ時を今は待つのか


評)
寒い日のあまり動かぬ鴨の群れをみているのだろう。作者の心情も寒そうだ。二首目は「永久に」まで言うなら、下の句も、「睦月如月駆け去ってゆく」ぐらいの強調があってよい。



斉藤 茂

ボーナスを貰ひて母におすそ分けこの幸せよいついつまでも


評)
他の四首に、もっと整った作はあったが、これに溢れるような心を感じた。ただ、結句の「いついつまでも」が演歌調なので惜しい。「この幸せをながくと願ふ」としたい。


寸言


 五七五七七という短い詩型です。一首のなかにあれもこれも言えません。長い状況説明も詩ではありません。一首に何が訴えたいのか、何を共感してほしいのか、まず焦点を一つに絞ること肝要です。
 また複雑な内容でとても一首に入らないと思うときは、二首にでも三首にでもしてみてください。一首だけで耀くものもあれば、二十三十の一群として力を持つものもあると思います。
 一攫千金を狙うようなやり方はどうも破滅も早いですね。ライブドアはこのごろの若い人を象徴する一つの進み方なのかと見ていましたが、結果はあきらかになりました。変な例ですが私たちはやはり一歩一歩進みましょう。
歌は息の長いマラソンです。
 ではまたお会いしましょう。


                倉林美千子(新アララギ選者・編集委員)


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