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今月の秀作と選評




小谷 稔(新アララギ選者)


秀作



英 山

上の山の共同浴場に身を沈め寒きこの夏の話に加はる
大壁画の炎の中の骸骨よそこのみ白く盛りあがりたり


評)
山形の旅、旅の歌は浅い報告になりがちなところ、その風土や生活感を確かに出している。
二首目、岡本太郎の壁画、端的に焦点を絞って印象鮮明、迫力がよく捉えられている。



栄 藤

妻よりも早口にものを言ふ人の言葉は聞きとり難くなりたり
孤独死のテレビ観てをり子を持たぬわれらの終の姿ならむと


評)
共に生きてきて最も対話の多いのが妻、それに慣れきってそれより早口の言葉についてゆけない。夫婦というものの機微を独自の面から捉えた。
二首目、今ニュースなどにもなる老人の孤独死を自分自身の問題として切実に詠む。



斎藤 茂

次々に家離れゆく娘(こ)にかはりわれら夫婦を慰めし犬よ


評)
今月は犬の挽歌、他の作は犬の死を具体的に捉えているが読者の想定内の捉え方でいま一つ独自性に欠けていた。この作は家族史のなかで犬の死をとらえたのがよい。


佳作



新 緑

大雨に我が家の鶏舎気遣ひて友は朝早くメールを呉れぬ
我が部屋に忍び込みたるキリギリス薔薇の造花に止まりて鳴きぬ


評)
いま普及しているメールがものめずらしい素材としてでなく、現実の切実な生活のなかで詠まれている。
二首目、薔薇の造花にとまりて、という偶然を捉えた写生の新鮮さ。



小林 久美子

向こう山のバイパス反対を叫べども渋滞ひどく気勢あがらず


評)
自然破壊には反対するが車の渋滞対策のバイパスはほしい、という矛盾を簡潔に捉えている。



石川 一成 *

潮騒を聞きし幼日思いつつ夜明けの渚を一人歩めり


評)
海水浴の一連のなかで泳ぎを詠んだものは小さい傷が点々とあったので結局均整のとれたこの作が残った。最終稿だけの提出なので「小さい傷」が推敲されないのであろう。



イルカ *

水の中解放感に身をゆだね泳げる我は幼な子のごと


評)
これは最初のままで推敲不要であった。「解放」は日常の何かの束縛からの解放なのでこれでよく「開放」はよくない。



けいこ

あかつきのしじまを破る熊蝉の甲高き声すぐにやみたり


評)
対象を良く絞りこんで集中しているのがよい。



市村 恵

一本の老いし柿の木裂けし幹のあらはに曇る大地に立てり


評)
柿の老木の一連、老木を生ける人格のように捉えて力を入れた作であったが、もうすこし肩に力をいれずにまた観念的に自然を見ないで、新鮮な写生を導入してほしいとおもう。


寸言


選歌後記

 このHPでかなり以前から熱心に投稿している人と初めてかかなり新しい人がいます。以前からの人は「新アララギ」の目指しているものを理解していますが新しい人はこのHPの案内のところをよく読んで投稿してください。「先人の歌」などバックナンバーで大量にたまっています。ぜひそれらを読んでください。歌は初めての手本がとても大切です。


                  小谷 稔(新アララギ選者)


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