佳作 |
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○
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斎藤 茂 |
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朝明けの白き富士山眺めむと職場の窓の露を拭きとる 窓辺に立ちこころ虚ろなり脳動脈瘤の疑ひありと知らせ受けとる |
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評)
何気ない日常の行為だろうが、清々しい快感を読者も共有することができる。富士山の歌は難しいが成功。羨ましい職場。二首目、大変だったが何事もなくて良かった。淡々と述べたところがよい。「こころは虚ろ」とすると歌に緊迫感がでる。 |
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○
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イルカ |
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青き海さんごに惹かれ訪れし那覇の浜辺に基地の広がる |
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評)
うきうきした旅の気分から、ふと現実に引き戻される感じが下の句によく出ている。 |
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○
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新 緑 * |
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設立にかの日かかわりし施設なり我ここに今リハビリ受ける |
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評)
「リハビリを受く」とする。「五十年あわない師にあて賀状書くいまも美声と笑顔の浮かぶ」これも気持のわかる歌だが、「いまも」を省き「美しき声と」とするとずっとよくなるように思う。語の斡旋もう少し。新緑さんお久しぶり。頑張ってますね。 |
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○
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けいこ |
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携帯より二歳となりしミレの声何語でお喋りしてるのかしら |
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評)
単に片言でわからないというのではなく、実際ミレちゃんは父の国の言葉、母の国の言葉を用いる家庭に育っているのかなと想像する。下の句の口語体はこれでよいと思う。 |
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○
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英 山 |
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上野駅に母を見送りつかの間を公園に仰ぐ銀杏の老木 |
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評)
瞬時のやすらぎを言い得たと思う。他の四首もそれぞれ写生による抒情の本道を歩みはじめている。「銀杏老木」と続けても良いかと思う。 掲示版の中で言い忘れたこと一つ。「垂乳根の」という「母」につく枕詞は、乳の満ち足りた女性をいうので、老いた母の乳ではない。 |
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○
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嗚 滝 |
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いにしへを恋ふる心に西日射す冬の田にたつ煙ひとすぢ |
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評)
抒情性の強い作品である。特に現実の冬田に一筋の煙を見たところがよいが、「たつ」が、掛詞のように、作者が立っていることと、煙がたっていることと、意味が重なるようなつくり方でないほうが良い。「冬田見てをり」とでもしたらどうか。 |
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○
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桂 辰 |
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登りたき山の地形を図に閲す日金山へはいづくの路を |
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評)
この歌は気持が良く動いている。山登りの前の準備であろうか。しかし苦労してまとめた「暮れも正月も」の歌はこれでは日本語ごたごた。とにかく意味だけでも整えてみると「車多く出でて街路も店も混む暮れと正月はやはや過ぎよ」となろう。原作と比べてほしい。これでも掲出の「山」の一首の方がよい。作り続けるうちに呼吸がのみこめると思う。 |
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