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今月の秀作と選評



 (2007年2月)

小谷 稔(新アララギ選者)


秀作



英 山

逆光の中に見おろす東京に果てしなき翳の広がりてをり
超高層のオフィスより見る東京はガラス隔てて大き静まり


評)
これまで山など自然の歌にもよいものがありましたが、今回は大東京の俯瞰というつかみ所のない難物に挑戦した意欲作です。推敲の過程で調子のたるみを克服した点を忘れないことです。



吉岡 健児

要領の悪さは己が遺伝子かをさなきわが子を叱る虚しさ
癒えし吾がいのちを包む朝光のまぶしき庭に寒椿咲く


評)
このひと月は自分の生に深く根ざしたところから抒情する、という点を深く受け止めて来られたことが熱心な推敲の度に感じられました。他の作もよくなりました。


佳作



新 緑

十年史を記念の式に配らんと麻痺の手ながら深夜に綴じる


評)
つねに前向きに行動的に障害に負けずに生きている姿が感動的です。



大橋 悦子

病棟の廊下に貼られし父の画のクレヨンのバラ三色に咲けり


評)
お菓子の見舞いの作よりも見舞いでないこの作のほうが文学的には質が高いのはなぜでしょうか。



けいこ

沿線はからし菜の花の黄にそまるトンネルの闇を過ぎし視界に


評)
別府の観光よりも名所でないこの風景の清新な美こそ歌そのものです。名所によい歌なし。



斎藤 茂

孫来ると厨の妻に頼まれて魚をおろして刺身をつくる


評)
下句によって孫歌のあまい平凡さを脱した。



嗚 滝

死んだ子が殺した母を呼んでゐるビルの谷間の喧騒の中


評)
ニュースの忌まわしい子殺しを詠む。「呼ぶ声か」として幻聴の感じを出したい。



イルカ

雪残るみちのくより来て出会いたり那覇の色濃き寒緋桜に


評)
「みちのく」としたので南国の桜が映えました。


寸言


選歌後記

投稿する人たちは初心の人もかなり作りなれた人もさまざまであるが、各自で手本にする歌人を持ってほしいと思う。短歌は五七五七七のリズムがあるので何を詠んでも歌の格好がつくが、それでは軽い日記まがいのものになる。こんな歌を作ろうという目標、理想を持つためにも手本が望ましい。自分の進歩につれて手本も変るであろう。

                     小谷 稔(新アララギ選者)


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