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○
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新 緑 |
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執念の成果と友の褒めくれる麻痺の足指動くを見つつ |
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評)
下句が良い。自分を客観視して冷静に歌うからこそ読者に切実に響いてくる。しかも、友からリハビリの成果と認められた事が嬉しいのである。リアルに歌った成果である。 |
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○
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ひ で
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いのち果てなば眠らむところときち詠う武尊の峯の雲はむらさき
生き難き障害持つ兄あわれなれ共に毒飲むきち二十五歳 |
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評)
ひでさんの今月の意欲が窺える作品。そのうち、良く一首に纏めた二首を秀作とした。意欲を持ち、作品化した事に敬意を評したい。一首目は結句が良い。淡々と歌ったところが良い。二首目事実を端的に詠いこんだ力は相当なものである。 |
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○
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むぎぶどう
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トラックを駆ける初秋の風になるまだ青春を知らないわが子
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評)
爽やかな一首である。わが子を歌うのは難しいのだが巧く纏めた。「初秋の風」となって駆け抜けるわが子を「青春を知らない」と捉えたところが独特である。 |
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○
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栄 藤 |
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観光の誘ひを断り被爆者のわれの広島をひとりに訪はむ
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評)
重い経験を捉え、「観光の誘い」を断り、密やかに訪ねるのだ、という沈潜した哀しみまでもが伝わって来る。「ひとりに訪はむ」に気持ちがこもっている。 |
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○
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斎藤 茂 |
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朝あけの萩の花咲く散歩道でんでん虫を草むらに移す
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評)
このような歌が、もっとあっても良いと思う。柔らかい作者の気持ちが伝わって来る。優しさが具体的な事で伝わって来る。ほのぼのとした気持ちにさせる歌だ。 |
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○
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吉岡 健児 |
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宙を切る仕上げ鋏を入れながら頑固親爺の皺深く笑む
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評)
上の句が独特な表現で魅力的である。それがあるから、下の句の俗っぽい言葉も生きてくる。歌はどのように上、下の句が影響し合って纏まるか、という事でもある。 |
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○
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英 山 |
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心病む君の思ひを測りたし丸刈りとなりしを戸惑ひながら
死にたいと事もなげに言ふ君の顔に病める心の奥はつかめず |
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評)
今月の英山さんは、意欲的に取り組んだ。「心を病む」君を浮き彫りにして、そこに気持ちを込めて歌う事は至難の技である。一首目は「丸刈り」となった事を心と巧く結びつけた。二首目は少し抽象的だが、「心の奥はつかめず」で辛うじて説得力を持った。 |
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○
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けいこ |
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「お空にはばあばの好きな青と白あっていいね」と雲に呼びかく
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評)
会話を歌に持ち込んで、成功した。結句も広がりを持って、纏める事が出来た。情景が目に浮かぶように歌ったことが良かった。 |
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