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今月の秀作と選評



 (2008年1月) < *印 新仮名遣い>

雁部 貞夫(新アララギ選者・新アララギ編集委員)


秀作



けいこ

藍いろの波たゆたへる海原に沿ひて加速す列車「宇和海」


評)
印象鮮やかな、さわやかな景と「・・・加速す」とダイナミックな表現がマッチした文句なしの秀作。



英 山


漆黒の碑に刻まるる幾万の霊よ見ゆるか鎮まる海を


評)
しっかりとした表現、内容を持った作。鎮魂歌として十分といえる。一連の作、充実していて良い。



新 緑 *


点滴さえままにはならぬ筋痛症の友励まさん言葉探して



評)
友とわれ、二人の病者が支え合って生きている。切実さをよく伝えている。


佳作



吉岡 健児


群鳥を曳きつつ還る一艘の漁船の艫に落日の射す


評)
「落日の」は「夕光の」としたい。レベルの高い作品群だが活きいきとした所に乏しいように見える。鮮度をどうやってだすかが課題だ。



山本 景天

マンションの窓を揺さぶる木枯らしの中を洩れくる「きよしこの夜」



評)
歳末が迫って来るなかで、日常の「わびしさ」が描かれている。



斉藤 茂


焼けこげる秋刀魚食べつつ盃(はい)重ね一人の夕餉佗しけれども



評)
「こげし」「重ぬ」としたい。この作も一人暮らしの男の「わびしさ」の歌だ。佐藤春夫の詩とよく似ているのがややマイナスか。



仲 山 *


この歳で戴くことの恥ずかしさ胸のブローチ面映ゆさ


評)
ある年齢に達した女性の気持が微妙に写しだされている。



小林 久美子


秋桜の咲ける茶房に共に来しきみ去り店は錠を下ろしぬ



評)
「店も」としたい。かつての恋が閉ざした店の前を通ると思い出されるのであろう。メランコリックなところが良い。



ひで


白髪の翁と酒を酌み交す薪はぜりて燃える山小屋



評)
「はじけて」「燃える囲炉裏に」としたい。内容があるに実際の表現ではずい分手こずった一連であった。地道な努力で表現をみがいてゆこう。



飛 朝


窓のないドイツ料理店の支配人フォークナプキン無言で並べ



評)
何となく「ドイツ」的な感じが出ている一首。但し「・・・で並べ」と結んだのは「川柳止め」と呼ばれる俳句的表現で、軽く、落ち着かないので、言い切ること。


寸言


選歌後記

今月の良い点
 歌の材料は十分に歌うに値いするものが選ばれている。
 何を歌うのかを常に意識して作るべきだと思う。

今月の悪い点
  記述的、説明的で読む側に響いて来ない(特に初稿)
  くどい作になりがちだ。「クドサ」は歌の敵と思って欲しい。


           雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)


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