作品投稿


今月の秀作と選評



 (2008年3月) < *印 新仮名遣い>

小谷 稔(新アララギ選者・新アララギ編集委員)


秀作



英 山

終電にうちの会社をなめるなと男の声あり吾が酔ひ醒めぬ



評)
会社の営業マンがその日の欝憤酒で晴らしたのであろう。会社員の作者には他人事ではないのだ。結句のすぐれた効果である。



小林 久美子


亡き母のその髪切りて作りくれし針山常にかたはらにあり



評)
手縫いに使う針山はせっせと家族のものを縫い、繕ったかつての世の母のシンボルのようなもの。深い慕情をこめている。



新 緑


禁煙を勧めし女性は子のためにきっぱり止めたと笑顔に話す



評)
忠告をしても無駄なことが多いがこれは成功した。子のためにというのは作者の忠告のポイントであったのであろう。



斎藤 茂


夜の更けて布団の中で「山姥」を読みやるわれは疲れて眠し



評)
甘くなりがちな孫歌を甘くなく詠んでいる。結句の正直さでよくなった。



吉岡 健児


夜の時雨つめたく光る窓の辺に椿の莟仄白く照る



評)
神経を集中した繊細な感覚の作。



吉井 秀雄


若き日に共にリングに立ちたりき君思ひ出せあの打たれ強さを



佳作



山本 景天


雪の夜に玄関に母走り来て素足で吾を送りくれにき




けいこ


吾子二人育てし時の意気込みをなつかしみつつ遠き孫思ふ




荒堀 治雄


介護したる老いに貰ひし紙の籠枕辺に置き妻は寝ねをり




仲 山


青空に絵をかくごとく雲の浮くピンクグレーに白は離れて



いあさ


冷たさも厭わず絞る友の手の白菜漬けは甘味を増して




あきたげん


休日の都会に積もる牡丹雪窓から眺め外には出でず




粉麦秋


ブロコリーの畑の道を珈琲豆とジャーマンポテトの袋持ち行く



寸言


選歌後記

 ここに投稿するようになって日の浅い人は、このHPの過去の「今月の秀作」をぜひ読むようにしてください。何を、どのように詠んでいるかという二面から見てください。そして他の読者に素直に伝わる表現になっているかということに留意してください。


           小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)


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