佳作 |
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○
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斎藤 茂
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麻痺残るとためらふ君を誘ひ出しボックスルンバをやさしく踊る
ダンスの楽しさ教へて呉れし君なりきそのリハビリに手助けをせむ
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評)
「ダンスの楽しさ」はいま少し「ダンスを通じて人間の根底にあるもの」を教わったことを凝縮して切り取ることが望ましい。だがこの一連にあるやさしさはよく伝わる。 |
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○
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はる
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トラやブチ庭に来る猫変りたり子の進路ひとつを迷いいる間に
開く戸に動きを止めしトラ猫が顔のみ向けて息詰めるらし |
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評)
たかが猫の対象をよく結晶させている。僅かなときの間にも猫も代替わりをするのか、そんなことを感じさせてくれる歌。 |
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○
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英 山
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コンクリートの川床縁取る土砂の上はや荒草のつらなり芽吹く
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評)
丁寧にみているところがいい。ただ一連丁寧さの上になにかが不足していよう。何かとはなにか。自分をこの点景のなかに投影するという本質ではないか。それだと思う。 |
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○
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新 緑
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暖房を落とししフロアのリハビリに汗にじみきぬ杖にすがるに |
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評)
リハビリの行にフロアをぐるぐる廻るのであろう。「汗がにじむ」この表現にてかなしみが抑えられている。これでいい。 |
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○
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山本 景天
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父亡き後月に一度の検診に連れ出して母の話聞きゐる
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評)
物語性にすこしもたれかかっていようか。この表現でこれは精一杯。やさしさがそのまま巧みなくでていい。 |
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○
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仲 山
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階下より鈍い声聴く施設長遠いところの通勤早し
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評)
段々歌が多くつくれるようになってゆく作者がわかる。巧まず世話をされるほうの感謝の思いがでている。一連を通じて感ずることである。 |
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○
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あきたげん
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ひとり駅に残して来しが母となり穏やかならん子等を育てて
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評)
俗になる一歩手前で切り取られている。一連の歌数を絞った作者の意図にちからを感ずる。 |
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○
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吉井 秀雄
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大山(だいせん)の吹雪きて見えず首ばかり動かす友の吐く息を聞く
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評)
連作の内容から重症の友であることは瞭然としている。3ー4句よく見ている。 |
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○
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荒堀 治雄
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膠原病に追い討ちかけて妹の脳深部動脈瘤今日知らされぬ
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評)
事柄がやや目立つところがすこし不満。こういう読後感を示された場合、さてどう作者は今後に生かすか。注目したい。 |
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○
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吉岡 健児
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謹呈の自筆の栞挿まれし名も無き人の歌集購ふ
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評)
栞が挿まれたままで読まれた形跡がないのか、読んであるのか?ここのところの正確さが今一歩欲しい一首。だがこのままでも通る。心を込めて贈られたものが売られている。これで充分ともいえる。 |
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○
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けいこ
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友来たりてもぎこし檸檬を絞りたり庭に熟れたる丸きその実を
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評)
もてなす思い、心待ちにしていた友が来てくれたよろこびが素直にでていていい。おそらくもがないで完熟させて友を待ったのであろう。 |
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