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今月の秀作と選評



 (2008年7月) < *印 新仮名遣い>

雁部 貞夫(新アララギ選者・編委員)


秀作



天井 桃

夕焼けのスポットライト浴びながら羽越ローカル線は南下す


評)
「いい日旅立ち」というポップスがあるが、あれの短歌版という感じで味わいがある。



新 緑


「今日からはシートベルト」と孫ふたり後部座席にはしゃぎ止まず


評)
他の作の方が重味があるが、この歌のなごやかさを採る。



斎藤 茂


上役は声を荒らげて詰問す「昨夜の故障は君のミスか」と


評)
現役の仕事の歌。その意味でも貴重である。



けいこ


をさなごが傘さしよちよち道をゆく梅雨に入りしか奈良は雨なり


評)
うっとうしい季節の中で、ほほえましい一場面をうまく把えている。他の作も良い。


佳作



山本 景天


父眠る葉桜の濃き墓の前若き僧侶の声響きたり


評)
一連の歌、みなしっかりした作品だが、それらの中で、この作の景と情のバランスの良さにひかれた。



天井 桃


草刈りし田んぼを行けば車窓から草の香乗せた風が過ぎ行く


評)
「夕焼け・・」の歌と甲乙付け難い。この歌も良い。



吉井 秀雄


どんな夢を見しや焚き火の燃ゆる音にしばし混ざりて子の寝息聞こゆ


評)
結句は、「聞く」として採る。山中での親子の交流をよくまとめた。子の年齢が(青年なのか、子供なのか)がわかると、もっと良い。



は る


ドア上の路線案内山の手にTVのような液晶を見る


評)
「山の手線」とする。現代の電車内の一風景。あるようでない題材の作である。



仲 山


イルカにもレギュラーありし選ばれて球を運びしジャンプもしてる



評)
「・・・・レギュラーのあり選ばれて球を選びてジャンプしている」として採る。少しくどい所があるが。他の作はもっと簡潔に詠みたい。



ま り も


半額と貼られしゲージに入れられし仔犬の瞳が吾を離さず



評)
「離れず」と結句を直して採った。他の作もみなとらえ所をつかんでいる。



英 山


宿坊の本尊拝み娘(こ)の平癒をひたすら願ひて経をまねびぬ



評)
他の作も手固いが、この作が最も印象的だ。結句は「経を唱えたり」とする。


寸言


選歌後記

始めは欠点が目立つ作でも、手直しを重ねるうちに何とか作品として姿が立ち上がってくる。それは、勿論材料が歌にすべき何物かを持っているからだ。歌材と表現、この二つのバランスをいつも考えて練りあげて行く所に歌の妙味も生まれてくる、と改めて感じさせられた。


          雁部貞夫(新アララギ選者・編集委員)


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