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○
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勝村 幸生 |
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先頭を交代しつつ渡り鳥命連ねて北へとびゆく
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評)
印象的な場面を切り取り、手堅く纏めた力量を買った。渡り鳥の歌は多いが、その命に思いを馳せて歌ったところが良い。漫然と見ていてはこうは歌えない。 |
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○
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松 本
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待合室のストーブを囲み鬱に耐へ言葉少なく椅子を譲り合ふ
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評)
病院の待合室で診察を待っているのであろう。鬱を病む人達がお互いの病を言わずに椅子を譲り合う、という場面が読む者に良く伝わってくる。ともすれば暗く陰鬱に終わる場面を冷静に歌ったところが良い。一連思いがこもっていて、いずれもよい。 |
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○
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新 緑
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車椅子を二人の孫が前後より我を押し上ぐ「ブルーメルの丘」
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評)
淡々と歌っているが、心の籠ったお孫さんとの交流が目に浮かぶようだ。表現も余計な事を差し挟まずに事実をきっちりと歌って、優れた歌になった。 |
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○
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太 田
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さくさくと髪刈りし時耳に触れる手ばさみの刃に冴える冷たさ
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評)
感覚的な歌いぶりが新鮮である。少し結句が軽い止め方になっているきらいあるが、感じは良く出ている。「髪切りし時」の方がよいのは言うまでもないが・・。 |
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○
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市 村
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真昼間の都会の空はいや高く弟はビルの谷間を堕ちゆきたり
逝きし弟のかの夏の日サルビアよ路上に今も咲き溢れるや |
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評)
尋常ではない肉親の死を前に、表現を抑えつつ悲しみが深く沈潜した歌い方は注目に値した。一首目はビルの高所からの墜落を「いや高く」と結んだ所が、考えた表現で注目した。二首目はサルビアの咲き溢れていたかの日の鮮烈な印象を中心に据えたところが良い。重い歌だ。 |
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○
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金子 武次郎
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ワイパーの凍てつく吹雪の峠越え最上の国より伊達に出でたり
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評)
上の句の具体がこの歌を引き締めている。下の句はさらりと流したようであるが、なかなか端的な言い方となって成功した。作者には歌いたい内容はいっぱいあるのであろうが、こういう歌い方も効果的な場合もあるのである。 |
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○
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吉井 秀雄
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谷底に生ふる真弓のひと邑に春浅き日差しの今日も届かず
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評)
早春の谷間(たにあい)の寸景を捉えて、巧く纏めた。なかなか達者な作者である。「真弓」に「日差し」が届かない、というところが見どころである。 |
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