佳作 |
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○
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松 本
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わが町の墓地はしづもる十一基の兵士の墓を前列に据ゑて
心筋梗塞に逝きたる母よ血圧の高き体質を子等に遺さず
肉を得る為に飼はるる牛の子が餌持つひとに駆けよりゆくよ
玄関にどつかと葱と大根置き告げず行きしは彼のほかなし |
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評)
「わが町の墓地は兵士の十一基最前列に据ゑてしづもる」とでもして秀作に推そうかとも思ったが、手の入れ過ぎと遠慮した。いずれの歌も内容表現共になかなかよい。 |
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○
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市 村
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街上に白き椿の花みだれああ美しきものが踏まれゆく
黒々と繁れる樫の太幹を揺り動かせり春の嵐は
音立てて樟の小枝を吹きちぎり春の嵐は森を抜けゆく |
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評)
推敲を重ねて、しっかりと対象を捉えた表現も確かな歌となった。作者の個性がもう少し表れたらなら素晴らしい。 |
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○
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金子 武次郎 *
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藍染めの手ぬぐい長く晒しいし巴波川(うずま)の流れ面影も無し
早々と確定申告郵送す年金のみの記入となりて |
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評)
着実に歌われている。「面影…」結句には改善の余地があろう。 |
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○
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太 田 |
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声をかければ拳突き出し応へ来ぬ子はいつ知らず逞しくなりて
「原因」と「理由」は違ふと生真面目に十七歳の子は語り出す
夜のふけに父われの部屋の戸を開き何をも言はず閉めてゆく子は |
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評)
青年期のご子息の姿を捉えて、好感が持てる。2首目の結句「始めり」という語法はない。書き替えた。 |
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○
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勝村 幸生 |
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資源なき日本とこれまで思ひしに地熱発電に期待膨らむ
輝ける楠の大樹に囲まれて天満宮の小さく見ゆる |
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評)
初稿からの経過を顧みて、よくここまで磨き上げられたと思う。 |
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○
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まりも |
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何処より土に付き来し花韮かわが庭隅に年々の花
くれなゐに芽吹きの楓はおほらかに葉を広げたり四五日の間に
詫びざるはこころに重荷を引きずらむためらひの後受話器を取りぬ
コーヒーのカップに両手を温めて雲閉ざす午後ひとり本読む |
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評)
ややあわい内容ではあるが、手際よく処理できた。 |
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○
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佐藤 和佳子 * |
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月山の白き頂き遠く見え新緑の道に深呼吸する
少女期に無心に読んだ短歌集母の挿し絵が少し嬉しく
何故に我がと自問自答した病と生きる幸せを知る |
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評)
よいものを掴んでいるのだから、今後はそれが充分に生かせるよう学んでほしい。 |
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○
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新 緑 |
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村の湯にわが背を流す義弟見て「幸せですね」と友のうらやむ
旅の宿に出でし卵の質のよく鶏飼ふ我は店を探しぬ |
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評)
独自のテーマがあり、これだけの歌が詠めるのだから、今後もそれを生かして作歌を続けてほしい。すでに長いこと学んでいる作者として、歌材メモのような初稿からは早く抜け出てほしいと切に願っている。 |
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○
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けいこ |
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ウォーキングの身を励ましてゆく闇にジャスミンの香のほのかにただよふ
灯り多き歩道えらびて歩みゆく夜毎付きこし月なき今宵 |
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評)
いろいろやっているうちに原点からずれてしまうことが多かった。注意してほしい。例えば2首目の3句、原作の「曲りゆく」に手を加えたのもそれに関わる。 |
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○
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吉井 秀雄 |
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家々の甍に月のかげ差すをうねる波かと思ひつつ見る |
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○
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紅 葉 |
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いさぎよく目覚まし待たず起きいだす土曜の朝はウキウキとして |
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評)
これを契機に、今後もぜひ続けてほしい。 |
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