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○
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うてな
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立葵を父の墓標と少女期にひとり決めたる八月三日
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評)
父君の墓標は別にあるのだろうが、作者は立葵をひとり決めしているのであろう。叙情性の豊かな作である。懐かしくまたうら悲しい思い出を誘う花、立葵がまた今年も咲き登ってゆく。いい歌だ。 |
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○
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まりも
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わが病背負ひて替はりくれたるか枯れし木瓜の根のなほ掴む土
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評)
枯れてもまだ土を掴む土、その執着するさまに作者は身替りになってくれたものより、おのれ自身をそこに見ているのであろう。 |
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○
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佐藤 和佳子 *
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温かく迎え給いし人々の伊予の訛りに心ほぐれぬ
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評)
前月だったか作者の歌に「再発は絶対ないと君は言う五年生存のその時遠し」という作があった。そして今月の一連ではまた活動を再開されての伊予の訪問であろう。「こころほぐれぬ」がそこに根ざすものなのである。 |
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○
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吉井 秀雄
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人拒み草まばらなる火口壁に黒豆の木の花はくれなゐ
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評)
硫気の満ちた火口壁の真紅の黒豆の花。作者の見ているものは花のいのちそものであろう。いい歌だ。 |
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○
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はづき生
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入れ歯せし母にあはせて枝豆はやはらかく茹でむ背がひらくまで
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評)
莢の背がひらくまでという事実、これでいきいきとした。なお原作の「あわせて」は「あはせて」と変更した。 |
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○
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金子 武次郎 *
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第二芸術と論じ合いたる日も在りき六十年経て詠い始めぬ
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評)
戦後の回想の歌もいいが、この歌が成るまでの執着がいい。六十年前の議論を実作の場にいま立って熱く振り返っている。いま青春の輝きを取り戻している。ときめきの傳わる歌。 |
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