佳作 |
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○
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紅 葉
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娘からもらひしキリンが玄関で帰りしわれを迎ひてくれる
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評) 「キリン」のぬいぐるみの具体がよく一首の中に収まっている。単身赴任の哀歓が背景にあって、歌を引き締めている。「向へくれたり」として纏めよう。 |
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○
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金子 武次郎
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われ一人残さるる夢に起こされしドイツの宿の忘れ難しも
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評)
単純に「ドイツの宿」と表現した所が、却って良かった。状況の説明は要らない。「夢に起こされた」とだけ歌って回顧している。歌の主眼が明確になり、歌としての完成度も増した。 |
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○
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うてな *
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誰もいぬ昼のしじまに悲しみの欠片のごとく皿は散りたり
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評)
「悲しみの欠片」はまだまだ推敲しなければならないが、大胆に歌の中に持ち込んだことを評価したい。雰囲気のある歌である。未完成ながら魅力的である。 |
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○
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まりも *
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日に一度も笑はぬことあると呟けば友は驚き吾を見つむる
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評)
この歌も現代を図らずも表現している。交友関係が狭まってゆく現代を、具体的な「笑う」ということに絞って歌ったのは、手柄である。それを聞いた友の驚きも読む者に、伝わってくる。 |
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○
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福田 正弘
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犬曳きて歩む舗道に踏まれたる蟷螂ひとつ動かざりけり
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評)
この手の歌には類型はあるが、十分魅力的である。ちょっとした嘱目であるが、注意深く見ていないと歌えない。その意味で、注意した歌である。なかなか神経が張っていて良い。 |
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○
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大 田
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海近き故郷の町のそのままに潮風かほる駅に降り立つ
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評)
「そのままに」が巧く収まった。故郷の町に対する愛着が出ていて、良い歌だ。今月の推敲を一番頑張った結果である。 |
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○
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けいこ
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シャンプーを終へて鏡に写る顔いよよ似てこし母の面差し
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評)
このような感慨を持つのは作者だけではない。そこに説得力がある。母上に似てきたことに感慨深いものがあるのである。母への接近がまた近くなった、と感じさせる歌である。 |
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○
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たびと
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リストラを言はれし君は職引きて言葉少なにこもれりと聞く
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評)
一連いとこさんの現在の境遇を歌っている。事実の重さを踏まえて、心理的な面に入り込んで歌う。その意味では作品化するのは、なかなか難しいが、この歌は冷静に歌って纏まりのある作品になった。他の作品も良い。 |
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