佳作 |
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○
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金子 武次郎
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再びは行くことなけむ尾瀬ヶ原友との写真出しては見入る
笹分けて金精峠にたどり着き眼下の沼に息をこらしき
「他人(ひと)の歌が分かるようになりました」友のメールにわれを省みぬ |
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評)
それぞれしっかりとした歌ではあるが、思い出に関わるものはどうしても弱いものになりがちだ。着実な表現力を生かして、さまざまなものに挑戦していただきたい。 |
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○
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新 緑
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ガリ版で我らが出した新聞を講師は高く掲げて語る
この電車に優先席はなけれども麻痺のわれ見て親子が立ちぬ
意識無く眠り続ける義兄(あに)の手が僅かに上がれば握りしめたり
車椅子提げて階段降りくれぬ駅の職員四人がかりで |
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評)
それぞれの歌の核がしっかりしてきてよい歌になってきた。なお、「話す」と「語る」の違いは辞書にて確認されたい。 |
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○
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昭 彦
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山の辺の道のほとりの柿の実の色つややかに風に晒さる
日の差せる稲田の藁に去年に見し初瀬の冬の牡丹を思ふ |
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評)
原作の「道に溢るる柿…」では如何にも不自然なので書き替えてみた。両首おとなしいが味わいを湛えている。 |
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○
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吉井 秀雄
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里よりの電話夜毎にかかり来て母の病を案ずる妻は
意識薄れゆくかと見しに声をたて母泣きたりと妻は涙す |
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評)
一連は、作者にとって特別な内容の歌で存在感があった。2首目は、例えばこんな言い方ができるという提案。 |
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○
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太 田
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子規居士の生れし伊予に向かはむと瀬戸内走る「しおかぜ」に乗る
瀬戸大橋を渡りて見下ろす内海の波凪ぐなかに青き島々 |
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評)
この一連、改稿を繰り返し磨かれてよい歌になってきた。 |
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○
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紅 葉
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今日限りけがの心配なくなりぬ子のアメフトの試合終はれり
足裏で水底探り知行浜に秋の陽浴みてアサリとりたり |
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評)
アメフトの子の歌は特色のある内容で、よりよい歌ができる可能性があり惜しいと思った。 |
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○
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けいこ
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取るものもとりあえず子の元に行くインフルエンザに休園の報に
インフルエンザ流行(はや)りて人なき公園にわが孫一人雲梯をせり |
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評)
2首目は、例えばこんな言い方ができるとの提案。 |
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○
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勝村 幸生
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ギターの曲「アルハンブラの思い出」に水に映えゐし宮殿思ほゆ
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評)
無駄な言葉をできるだけ省いて、例えばこんなように言えば、読者は作者の心に近づくことができよう。 |
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○
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福田 正弘
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轟けるヘリコプターの編隊に彼の戦争の記憶立ち来も
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評)
まことにその通りではあるものの、戦争の記憶がよみがえってくるというだけでは、余りにも一般的ということになる。 |
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