|
|
|
|
|
|
|
(2010年2月) < *印 新仮名遣い> |
|
吉村 睦人(新アララギ選者・編集委員) |
|
|
|
秀作 |
|
|
○
|
|
吉井 秀雄
|
|
蓋開けて漂ふは瀬戸なる潮の香かみどりに光る牡蠣あまたなり
|
|
|
評)
「賞与なく暮れゆく年の晦日の夜赤穂の友より牡蠣の届き来」を受けての歌であるが、この一首だけでもとてもよい。思いがあふれ出ている歌。「賞与なく・・・」「正月の・・・」の歌もよいと思う。 |
|
|
|
○
|
|
太 田
|
|
友の家の心づかいに足許の湯タンポぬくし一夜を眠る
|
|
|
評)
おとなしいながら、思いは十分にこもっている歌。 続く二首「蝋梅の・・・」「み仏に・・・」も悪くない。 |
|
|
|
○
|
|
金子 武次郎
|
|
知り人の一人二人と去りゆけどこの団地を終の住処と決めむ
|
|
|
評)
これも境涯詠としてすぐれている。次は五首目であるが、「今に残る笹谷街道の松並木この峠越えて茂吉行きしか」としてはどうだろう。 |
|
|
|
○
|
|
うてな *
|
|
冬の雨やみたる空に虹たてりわが淡き思慕ゆだねるように
|
|
|
評)
「わが淡き思慕ゆだねるように」に共鳴できる。この歌の前「渋谷駅前・・・」「姉が着し・・・」の二首もよいと思う。 |
|
|
|
○
|
|
けいこ
|
|
朝夕に挨拶かはす友のあり異国の若きらとネット通して
|
|
|
評)
三首目と、五首目のこの歌がよい。グローバルなこれからを暗示する歌。三首目は「詩となる言葉」を「歌となる言葉」としてもよいだろう。 |
|
|
|
|
佳作 |
|
|
○
|
|
福田 正弘 *
|
|
お揃いのシューズ履きいるアベックの高校生とすれ違いたり
|
|
|
評)
この歌、何ということはないようなのだけれど、心惹かれるところがある。次は七首目がよい。私もあと二、三日で満八十歳、高齢者である。 |
|
|
|
○
|
|
勝村 幸生
|
|
玉砂利をざくざくと踏み内宮の五百年経し木々の下行く |
|
|
評)
「ざくざくと」というオノマトペも安易ではなく、利いていると思う。それは下の句によって支えられているのだろう。次は六首目を採りたい。 |
|
|
|
○
|
|
紅 葉
|
|
ぴたぴたと師走の雨は冷たかりけふの帰りは地下鉄にせむ
|
|
|
評)
他の作は少々事柄の目立つところがある。事柄よりも感銘を、事柄の中に感銘を。その意味でこの歌はよいと思う。 |
|
|
|
|
● |
寸言 |
|
|
選歌後記
実に数年振りに新アララギのネット上の作品を評することになったのだが、
どの作者のも粒が揃っている。単に整っているというだけでなく、心がそれぞれにこもっていると思った。私もまた皆さんといっしょに研鑚しようと思う。
吉村 睦人(新アララギ選者・編集委員)
|
|
|
|
|