|
|
○
|
|
岡久 夏子 *
|
|
大きなる窓を開けたる暁に指の先より染まる群青
|
|
|
評)
「指の先より染まる」が斬新だ。少し無理かなあ、と思う表現でも敢えて挑戦する事も時には歌境を拡大する意味でもやる価値がある。その意味で、秀作とした。この作者なかなか良いものを持っている。是非今後も続けて欲しい。 |
|
|
|
○
|
|
百 花 *
|
|
空高く投げたボールが落ち来ればサーブ打つ間の心の真空 |
|
|
評)
「心の真空」は多少熟さない表現とも思ったが、この歌も、新しい表現への接近として評価した。この作者もなかなか清新なものを持っている。今後とも続けて欲しい一人だ。 |
|
|
|
○
|
|
まりも
|
|
二メートルの距離置き吾を見返しつつ刈田の鶺鴒動くともせず |
|
|
評)
鶺鴒が、自分と距離を置いて見詰めている、という所が見どころである。結句の「動くともせず」で一首が引き締まった表現になったところも評価したい。どしどし遠慮せずに詠い込んでほしい作者である。 |
|
|
|
○
|
|
安 藤 *
|
|
出張で君が遠くにいる日には吐息つきつつ透明になる |
|
|
評)
この歌も「透明になる」が必ずしも多くの人に受け入れられないかもしれないが、個性的な把握であることには違いない。歌は、時には大胆に思い切って、表現する事も必要である。この歌にもそれが感じられるので、完成度ではまだ検討する余地はあるが、秀作とした。 |
|
|
|
○
|
|
吉井 秀雄
|
|
夜の更けに明かり眩しき工場はシャンプー作るか甘き香りす |
|
|
評)
一首すっきりと纏まったところを評価したい。過不足なく詠い切っているところも好感が持てる。「甘き香りす」も纏まりある表現である。 |
|
|
|
○
|
|
金子 武次郎 *
|
|
迎え火の提灯掲げ田舎路を母と帰りき七十年前 |
|
|
評)
母への追憶が美しい。70年たっても鮮明に蘇ってくると言うのだ。そこに実感があって、良い歌になった。歌はこのように完成度の高いものにしてゆくための推敲を重ねることも大切である。 |
|
|