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今月の秀作と選評



 (2010年12月) < *印 現代仮名遣い>

 星野 清(新アララギ選者・編集委員)


秀作



金子 武次郎 *


年に一度敬老の日のあることをよしとすべきか無縁社会に
町内の後期高齢者四百人古りし団地に老々敬老


評)
敬老の日については様々な意見があるが、この下の句により、それらを踏まえての作者の思いが受け取れる。次の「老々敬老」の歌は、すぐれた社会時評となっている。



長 閑 *


共に住む暮らし待ちいし姑病みてホームに移りすでに六年
小春日の朝(あした)を姑(はは)に暖かき冬着揃えてホームへ急ぐ


評)
前の歌、調子を整えるために手を入れた。参考にされたい。両首、作者の心の温かさが感じられて好感が持てる。



吉井 秀雄


白熱灯全て点した眩しさにさらに冷たし夜の工場は


評)
推敲を重ねて、特に3句により、現場にも心にも、透徹したものが感じられる秀歌となった。



紅 葉 *


我慢せず怒れば良かった寝がえりを何度もうって朝を迎える
筆圧はむかしのままにしっかりと老いし母よりの手紙届きぬ


評)
推敲の課程を顧みて、ここに至った努力を称えたい。2首目の上の句の捉え方には作者の心の眼が働いていてよい。下の句に少し手を加えてここに採った。



まりも


木枯らしに霜に耐へよとパンジーの根方を包む腐葉土混ぜて
煉瓦塀に添ひて並べしパンジーに道行く人は声をかけ行く


評)
両首に見られる素直な心が作歌の基本姿勢には大切。「根方を包む…」のように、作者の心の反映した捉え方を、今後も心掛けてほしい。


佳作



紅 葉 *


心地よき夜の眠りのくる予感ヨガの稽古に疲れ兆して
夕空にま黒きビルのシルエット西日まぶしき頃のなつかし


評)
工夫を重ねてここまで来た。結句に少し手を加えたがよかったかどうか。次、結句の意味するところが不鮮明で、心引かれるものがありながら佳作とした。



金子 武次郎 *


免許証返納すべきか迷いつつ八十の運転止められず居る
紅葉なす笹谷街道下り来れば蔵王も紅く湖面に映ゆる


評)
気持ちはわかるが、やや一般的なところで終っていよう。次、一応は言い得たというところ。



長 閑 *


月一度草引く庭にはびこりてヌスビトハギの淡き紅
庭に咲く高砂百合をいく本か彼岸詣での花に添えたり


評)
独立した1首では、上の句の事情はわからない。「訪ね来て」などとも考えられるが、「て」が重なり大きくいじってしまうことになるのでこのままとしたが、大変心引かれる着眼である。次、内容とすれば一般的だが、一応受け取れる。



まりも


プランターに細々咲き継ぐサルビアを北風除けて日溜まりに置く
腕力は夫に頼りてパンジーの三十六株植ゑ終りたり


評)
参考意見を基に落ち着いた両首。歌はこんなところで留めるということを意識してほしい。



吉井 秀雄


工場の屋根を叩ける夜の雨にまた時計見る深夜の職場


評)
気持ちはわかるが、下の句がもう少し…。充分に秀作となりうる歌材であろう。



石川 順一


ギャンブルの無料ゲームを続ければ一日たりとも欠かせなくなる


評)
5首の中からこれを佳作としたのは、作者の心にふれるものがあるから。他は、「どうしてどうだった」と話の筋に終っている。



安 藤 *


ピーマンが嫌いな彼は目を凝らしスパゲッティの具をチェックする
長い夜はラフマニノフを聴きながら時の流れのなかに漂う


評)
両首とも軽いが、ある状況や雰囲気を伝えている。


寸言


選歌後記

よい歌を見極める

 例えば、書画骨董などの目利きになるには、常によいものにふれて暮らすことが大切だと言う。本物にふれていれば、自ずと真贋を見極める眼が養われるというのだ。幼少の頃からならばより効果的に、知らず知らずのうちにすぐれた眼力が備わるという。
 歌の善し悪しについても、同じことが言えよう。よい歌を詠みたければ、愛読するに足るよい歌集に常に親しむことがよい。今さら若年に戻るわけにはいかないが、今日からでもよい歌に多くふれるよう努めよう。新アララギにて歌を学ぶならば、ぜひアララギ系の歌人の歌を選んで読み親しんでほしい。

           星野 清(新アララギ選者・編集委員)



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