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今月の秀作と選評



 (2011年2月) < *印 現代仮名遣い>

 吉村 睦人(新アララギ代表)


秀作



Heather Heath


柔らかに煮し雑煮餅母のため指先大に箸で割るなり
耳澄ますほどに小さき囀りの庭より聞こゆ名も知らぬ鳥



評)
上の1首目は、とても心打つ歌。「柔らかに」「指先大に」の具体がよい。
2首目は、「耳澄ますほどに小さき」がよくその感じを表しています。「亡き父の・・」も悪くありません。



吉井 秀雄


夜の更けに賀状の写真選びたり今年登りし山のものより



評)
「夜の更けに」という時間設定がどういうわけかよく利いています。
「子はもはや・・」「十七歳と・・」もほほえましい歌。「吾が姿・・」は普通でしょう。



金子 武次郎 *


吾も妻も整形外科にかかる日々二人の心通うこの頃


評)
下の句の思いの裏付けが、上の句にしっかりと記されています。
「腰痛を・・」は少々普通、「かつてなき・・」は平凡でしょう。


佳作



まりも


新しき山土あかく畝覆ひ友の大根日々太りゆく



評)
赤土の山土を苦労して客土した友の畑なのでしょう。この歌も下の句の裏付けがしっかりと上の句でなされています。「豆腐屋の・・」「校舎より・・」もよいでしょう。



紅 葉


すこやかに皆ゐるらむや市報には「いずみ短歌」の募集の知らせ



評)
作者は事情あってしばらく離れているのでしょう。そういう時の思いがよく表れています。



いちおか ゆかり *


子と二人ろうそくの火が消えぬよう墓に寄り添い手を合わせおり



評)
蝋燭は墓石の前ですから、手で覆うには当然「墓に寄り添い」ですが、そこがくどくなく、かえって気持ちとなって表れています。「おむつ替え・・」は当たり前過ぎ、「桜の木・・」は切られた枝を拾ってきて咲かせようとしているのでしょうが、「満開」とまで言うのはどうでしょうか。



くりす *


老い猫とひとつ枕をうばいあい獣のように重なって寝る



評)
思い切って言ったところがとてもよい。「亡き友の・・」も注目したところですが、「破り捨てたる」の感じがもう少し出るとよいと思う。



石川 順一


雪落つる音は確かに神秘的夜のしじまに何もせぬ時



評)
一つの感じをとらえ得ています。



安達 広介


夜の隅ひとりかがやく自販機に闇の中より烏龍茶押す



評)
「闇の中より」に少し無理がありますが、暗い中から近づいて行ったのでしょう。
他の4首もそれぞれ独自なところがあるのですが、それが表し切れていないのが残念です。



安 藤 *


ひっそりと降る牡丹雪手を濡らし胸いっぱいにいちめんの白



評)
「手を濡らし」は手の上で雪がとけたのでしょうか。そして「胸」のあたりには服に「いちめん」に付いているというのでしょう。問題はそれらがどういう感じを作者に与えているのかがはっきりしまいところです。「うっすらと・・」の歌の方がよかったのかも知れないとも思いますが、「桟に書く」がどういう所に書くのか分かりません。


寸言


選歌後記

 採った歌はどの歌も、作者の体験をもととして、作者自身の思いを感銘を、表そうとしているところがよいと思います。折角のそういう思いが十分表れていない歌は、残念です。

           吉村 睦人(新アララギ代表)



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