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(2011年3月) < *印 現代仮名遣い> |
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小谷 稔(新アララギ選者・編集委員) |
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秀作 |
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○
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金子 武次郎
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稀なりし女性科学者の道あゆみ逝きたる君よともに励みき
新幹線開通させて何ゆえに人ら急ぐか奥の細道 |
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評)
今日では女性科学者は珍しくないがこの挽歌の人はその草分けのひとであろう。同じ大学での研究仲間であつたゆえ心がこもり歌が形式化しなかつた。
東北新幹線の開通に寄せて時間を争う新幹線とゆつくり歩いて詩情を深めた芭蕉の「奥の細道」を連想させておもしろい。 |
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○
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紅 葉
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年末の休みに入リてケイタイの朝のアラーム全て取り消す
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評)
年末の休暇に入ると仕事上の交渉などきつぱりと断つ。いさぎよい決断で今日の必要な新しい処世術といえよう。 |
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○
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くりす
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夢に見る母のまなこは常に優し我を拒みし顔と異なる |
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評)
子どものころ母の愛を得られなかった悲しみはいつまでも消えない。夢の母は願望の世界の母で永久にやさしい。 |
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○
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まりも
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被爆にて逝きし貞子さんの折りしつる瞼にわれも「祈り」を唄ふ
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評)
十二歳で被爆して亡くなつた少女を悼むコンサートの歌。その少女の折つたつるを瞼にしてというので生きた作。 |
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佳作 |
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○
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安 藤
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ゆっくりと腹式呼吸を繰り返し雑念押さへ枕に沈む
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評)
寝床にはいってもなかなか寝られないのは辛いもの。作者の苦心の睡眠法はその効果はいかに。 |
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○
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安達 広介
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乾杯の声テーブルにゆきかいて淡きピールのにがき噛み締む
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評)
乾杯の声があちこちで威勢よくゆきかう一隅で作者はひとり飲んでいる。孤独感を捉えた場面がよい。 |
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○
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ゆかり
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野良猫が仔を連れて飲むコンクリの上のわずかな雪解け水を
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評)
よいところを見付けている。コンクリ以下の写生がよい。 |
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○
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Heather Heath
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今日もまた親子丼食細き母の好みに作る昼餉は
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評)
食の細くなった母が栄養のありそうな親子どんぶりを喜んで食べてくださるならよしというべきか。 |
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○
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石川 順一
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雪の日にブロック塀の破壊され少し不気味な日曜日なり
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評)
この塀の被害も雪のせいらしい。雪を単なる風景としてでなくこうした観点から捉えると平凡を脱する。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
今回も若い小田さんにおおいにアシストしていただきました。
新アララギの最近号(三月号)で或る評者が、比較的若い年齢層で意欲的な作品を次々発表している三氏を取り上げている。その三氏の中にわが小田利文氏が入っている。
兄上の死を詠んだ作。
朝の日に目覚めぬ兄の顔のうへに吾が影を落し握り飯食ふ
この作につき、突き刺さるような鋭い写生の力を示していると絶賛している。
小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)
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