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(2012年3月) < *印 新仮名遣い> |
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内田 弘(新アララギ会員) |
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秀作 |
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○
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なの *
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天空の果てまで続く飛行機雲ただ一色の青の世界
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評)
結句が少し物足りない気はするが、印象の鮮明な歌である。飛行機雲は確かにどこまでも続いていきそうな感じがする時がある。そこを過たずに捉えたのはこの歌の手柄である。 |
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○
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吉野 秀雄
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火打山に雪降りしかと言ふ妻の瞳の中の深き晩秋
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評)
巧い歌である。特に結句の体言止めが利いている。妻君の瞳の中に晩秋を見る、と言う所が良いではないか。初句の山の名前もなかなか良い。 |
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○
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Heather Heath H
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また二軒無人となりて何時の間にか老い行く町に六十年生く
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評)
町の推移を醒めた目で見つめて歌っている。極めて冷静に歌うが故に読者に感慨が伝わる。表現と言うものは、淡々と歌うが故に想いが深く籠もると言う事がしばしばある。「老い行く町」が良い。 |
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○
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金子 武次郎
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宣戦のニュース聞きつつ皆黙し焚き火囲みき開戦の朝
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評)
忘れようとしても忘れられないことが人には有るものだ。今は遠くなったとはいえ、開戦の日の朝だけはまざまざと覚えている。それを手際よく、過不足なく纏めたところはなかなかのものである。「焚き火囲みき」の具体が良い。 |
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○
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もみぢ *
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鈍色の空に覆わる山の湖襟立て眺む岸辺のテラスに
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評)
「鈍色」と使うとなかなか生きないのだが、この歌は状況と合っているので気にならない。岸辺のテラスに立って湖を見る、そして、空へと視線を移しているのだ。動きのある表現になっている。 |
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○
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古賀 一弘 *
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やり直すことが出来れば南欧の小さな町の花屋になりたい
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評)
素直に自分の願いを一直線にぶつけているところが良い。表現は幼いが、勢いで押した歌である。こういうような清新な歌もあって良い。 |
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佳作 |
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○
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紅 葉 *
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「波の音聞えますか」とメールするきみとつながる時がほしくて
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評)
紅葉さんの相聞歌は一所懸命歌っているのは良く分かるが個性的なものが欲しい。この歌も良い所を歌っているのだが下の句がどうしても舌足らずになっているのだ。しかし、懲りずにどんどん歌ってほしい。 |
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○
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岩田 勇 *
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先輩と将棋対局筋に入り彼の鼻歌に敗勢となる |
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評)
ユーモラスな場面を歌っていて面白い歌なのだが、言葉がこなれていない。歌にユーモアがあっても一向に構わないのだが、軽い歌で終ってしまうのは避けたい。 |
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○
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星 雲
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欠くるところなき妻の言ふホステスの過去なるにわれ何故拘泥す |
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評)
歌いたい気持ちは明確に出ていてその意味では解りやすい歌だ。しかし言葉の吟味に心がけて欲しい。「欠くるところなき妻」とか「拘泥す」などの表現はもっと考えるべきだ。 |
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○
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山木戸 多果志 *
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みぞれ降る夕暮れさえも家族のため買い物に我は出かける
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評)
平明に歌っていて、意味も明らかである。その意味では歌の基本的なものはクリアしているのだが、感動が薄すぎる。また報告的である。そこを何とか克服してほしい。 |
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○
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石川 順一
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攻められし我を贖う者は無く家族家族会議の悪夢再び
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評)
小説の一場面の様な歌だが、事情がもう一つ出ていないために迫って来るものが雰囲気だけでおわってしまっているところが惜しい。「購う」の言葉の使い方ももう一歩だ。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
今月は新規定で最終稿は三首であつたが、作者自身厳選した割には余り良い作品がなかった。秀作に挙げた作品はそれぞれに一首の歌いたいところが明確で、思いを込めて完成させている点が良かった。この欄に何度か書いたとは思うが、歌はその人の持っているものの表現の集大成である。従って、歌いたいたいことが何であるかをきちんと把握して完成させて行く事が肝要である。何となく出来た、と言うのでは心もとない。表現の工夫ももっともっと遣ってほしいし、何よりも、自分の気持ちに素直になって、最後まで完成していってほしい。
内田 弘(新アララギ会員)
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