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今月の秀歌と選評



 (2012年4月) < *印 新仮名遣い>

 大井 力(選者・編集委員)


秀作



Heather Heath H


父看取りて戻り来し街エヴァンスヴィル花水木咲き日は温かし



評)
原作「エヴァンスヴィルは」であったが「エヴァンスヴィル」と「は」を抜いて採った。花水木も漢字にした。父の看取りの様子など何も表現されていないが、想像させる。ほっとする思いのよく出た歌である。



金子 武次郎


汝も吾も「今年は地震ご免だなや」と同じ言葉の年始となりぬ



評)
はからずも同じ言葉を発しての新年、切ない被災地に近いひとの声を聞く思いがする。切ない声である。



古賀 一弘


帰り来しわが故郷よ博多弁「バイ」「タイ」「クサ」など山ンゴツ浴ぶ



評)
読んで暖かい気持ちにさせる歌である。これは懐かしさであり、誰もが持つ人の原点である。



山根 沖


道沿ひの山茶花切り詰め村人ら賦役の後を酒酌み交す



評)
賦役は昔でいう出会い仕事。村に残る習慣であろう。この風景はもう忘れられてしまったのではないかと思ったが、この一首にであってほっとした。



星 雲


雨をいふ天気予報に朝よりの身の内何処かに湧けるけだるさ



評)
微妙な感覚を一首にしようとしている。結句はまだ工夫の余地はあろうが、自らの内部に目を向けて詠うという姿勢に賛意を表したい。



山木戸 多果志 *


震災にて早まりていし帰宅時間一年経ちて戻り来たりぬ



評)
地味な歌であるが、これも生活のある場面としてなにか自分の中に戻してくる感情を大事にしているのが分かる。


佳作



まりも


眼球に光のメスを入れること心配掛けじと子等には告げず



評)
よく整った歌。子等に敢えて告げない心理がよく表現されている。



もみぢ *


空向きて二羽の丹頂飛び跳ぬる互いに白き息はきながら


評)
もっと推敲の回数を増やせば秀作になる一首。「飛び跳ぬる」をもっと凝視。白き息吐き首を差し交わす状態をどういうかである。



な の


電線の雪唐突に肩に落ち見上ぐる空に白き広がり



評)
結句にまだ工夫があろう。雪を絶え間なく運んでくる得体のしれない奥の深い天空をどういうかであろう。



紅 葉


ブルースのステップ踏んで信号を待つ交差点SSQQ



評)
習いたてのブルースというのが入るとわかるが、SSQQというのがダンスの門外漢のは分からないとも思えるのが難。



石川 順一 *


電気店跡地に軍手二つ落ち記憶の家を見て居る気持ち



評)
結句の「気持ち」が結果ではなかろうか。この電気店と作者は関わりがあるのか。ないのか。分かるように結句を工夫すれば良くなること請け合い。



岩田 勇


草食める母に凭れて眠りゐる木曽馬の子の睫たをやか



評)
まだ結句の工夫がある一首であるが、作者の優しい感じがいい。


寸言


選歌後記

世の中がどう錯雑化しようとも人の生きる真理は不変と思いたい。歌を詠むというささやかな作業は日常にまぎれながらも人の生きる為の真理の追究である。今月の歌にもそういうものが沢山あった。地道で素朴なるこの情緒を大切にしたいものである。

          大井 力(新アララギ選者・編集委員)



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