佳作 |
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○
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金子 武次郎
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さりげなく年相応ですと医師の言う平均寿命を超えたる吾に
年取るも老いてはならじとこの週も新聞歌壇の頁を開く |
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評)
二首ともに素直な気持ちが現れていて、好感を抱いた。平均寿命を超え、お元気で短歌に勤しまれる作者をお喜びいたします。 |
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○
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文 香
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石積みの棚田に水は静まりて緑清らに山並みの映ゆ
これからも守ってやるよと言い置きて未来を見つつみまかりし祖父
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評)
「美しい」と感じた風景を「美しい」と言わないで詠むのは案外むつかしい。個性的な作品群の中で、このように静かな自然詠に出会うと、ほっとする。二首目も、「言い置きて」に、生前の祖父と作者との心の交感がうかがえて切ない。 |
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○
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波 浪
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片足で立ちてズボンがまだ穿ける八十四歳の朝のよろこび
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評)
このリズム感は、アララギの歌に親しむ人のものと見える。大らかさがよい。 |
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○
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もみぢ
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丈伸ぶる葦の繁みに水鳥の見え隠れする湖岸をゆく
菜の花の咲けるひと群黄色なる夕べのひかりに溶け合ひにけり |
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評)
二首ともに平穏な風景を素直に詠まれている。 |
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○
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紅 葉
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わがままを許してくれし二日間戻ると言へぬ今を知りてか
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評)
「戻れぬ」という状況は伏せて作者一人の感情をうまく処理している。 |
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○
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岩 田
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退職の男等粋なジャケットで大衆酒場の暖簾をくぐる
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評)
改稿過程で、いつの間にか登場人物も颯爽と変身できました。 |
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○
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漂流爺
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倒産の底を這ひずれば古妻と金銭を諍ふ煙草もなき夜
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評)
ことば遣いに練れた方とお見受けしました。気持ちを抑えて詠む歌の良さにもやがて気付かれるかと思います。 |
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○
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山木戸 多果志
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海と聞き思い出したり海近きに住みて寝床に聞きし波音
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評)
作者、いつの頃の記憶なのかが判ればと思うことと、「海近きに」以下で、一首になるとさらに良かったであろうとも思う。 |
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○
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ゆの字
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恐竜の傘をさしたる幼子が「放射能が降ってきた」と言う
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評) 大人の言葉のコピーを真顔で言う幼子を、いとしむ気持からの歌かと思う。 |
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○
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石川 順一
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自販機と下駄箱からのノイズ聞き銭湯を出て量販店へ
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評)
最後まで読み解けない作品であった。 |
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